「実践知に基づいた回答」「100万事業所の顧客データからレコメンド」 活用のポイントを探る
高橋 自社が目指すセールスの形によって、生成AIの活用方法も変わりそうですね。その具体的な基盤や仕組みについて、詳しく教えてください。
中山 富士通では、ChatGPTやGeminiなどの外部AIを安全に利用できる「ChatAI」と呼ばれる社内基盤を設けており、全社員が利用可能です。社内の一定レベルの機密情報まで入力できるよう、セキュリティ基準も設けているのが特徴です。
その汎用的なAIの上に構築されているのが「ChatAI Business Supportモード」です。営業やコンサルなど、フロント業務向けに特化した機能群を備えたマルチエージェントAIです。
このモードは、通常のLLM(大規模言語モデル)とは異なり、社内各部門や個人に分散していたノウハウやナレッジを集約・統合し、RAG(Retrieval-Augmented Generation)技術を用いて回答に反映しています。一般的なLLMの知識に加え、富士通独自の実践知に基づいた回答を得られるのが強みですね。
さらに、商品情報、事例データ、スライド生成など多様なタスクに対応可能なAIエージェントが搭載され、「Planer Agent」や「Orchestrator Agent」などが最適なリソースを選択し、ユーザーの問いかけに応じて最適な情報とアウトプットを提供します。

高橋 セキュアな環境と社内情報の統合が鍵ですね。リコージャパンではいかがでしょうか。
児玉 リコージャパンのAI活用には、大きく分けてふたつあります。 ひとつめは、本部主導で進めているもので、SFAにレコメンド型AIを連携しています。商談後、営業担当がSFAに入力した情報をもとにAIが「お客様の課題」や「重要なキーワード」を抽出し、関連する提案書やチラシなどをレコメンドしてくれる仕組みです。
ただし、当時は商談情報、とくに課題はほとんどSFAに入力されず、かんたんな記録に留まるのが実情でした。これでは適切なレコメンドができません。
そこで、SFAだけでなく、全国に持つ100万事業所分の顧客データ基盤を活用しました。たとえば、建設業で従業員が100名規模のお客様を訪問した場合、類似の業種・規模の企業の購買データを参照し、次の提案をAIが提示してくれるのです。 当初は定番商材が多く出てきたり、データ量が膨大で絞り込みが難しかったりといった課題もありましたが、現在はインターネット上の情報も組み合わせて検索・分析し、提案の精度を高めています。
もうひとつの取り組みが、営業現場主導のAI活用です。本部の推進部門だけでAIツールを開発すると、現場の業務フローには詳しくない分、どうしても使い勝手が悪くなりがちです。そこで、現場の営業担当自身に、ノーコードツールを活用して「自分たちの業務に本当に役立つAIツール」を自らつくってもらうことにしました。このようにトップダウンとボトムアップの両面からAI導入を試みているのが、リコージャパンの特徴です。