2タップで議事録作成 「魔法のような体験」を実現するキラーアプリを内製開発
──齋藤様の現在のミッションとキャリアについてお聞かせください。
私のミッションは、みずほグループ全体におけるDXを推進することです。その役割は多岐にわたりますが、主に次の3点に注力しています。
まず、生成AIの共通基盤整備です。次に、従来のシステムとは異なる特殊な領域である、人間の代わりに動いてくれるAIエージェントの実装です。そして、私たちはシステム開発を内製化する方針をとっているため、その開発部隊の運営・管理も担っています。
私自身のキャリアは、2023年9月に中途入社するまで、10数年で経験した3社すべてが銀行です。かつては住宅ローンの営業や長期延滞者の債権回収といった現場業務に加え、現金輸送のロジスティクスといった特殊な業務まで経験しています。
2社目のネットバンクでは、マーケティング営業に携わったあと、システム部門に転身しました。みずほに中途入社したタイミングが、ちょうど生成AIの本格活用が始まる時期と重なり、現在のミッションを担うに至っています。
──現場ではどのようにAI活用を進めているのでしょうか。
私が直接現場に立って活用を推進しているわけではありませんが、デジタル戦略部として、現場が利用するシステムやアプリケーションの開発を通じて貢献しています。
まず、AIを全社的に活用するためには「共通基盤」の整備が不可欠です。そこで、2023年6月に社内版AIチャットボットである「Wiz Chat」をリリースしました。これはもっともシンプルなAIチャットボットとして、質問に対して何かしらの返答をしてくれるツールであり、現在、営業店を含む全社での活用が進んでいます。
その活用方法は多岐にわたります。あくまで一例ですが、グローバル部門では翻訳によく使われます。さらに、単なる翻訳だけでなく、返信文のアイデア出しまで一連の流れで完了できる点が強力です。
また、お客様との面談前にWiz Chat上のインターネット検索を通じて情報を素早く確認したり、さらにはCSVファイルをチャットに入れてデータ分析を行わせるなど、現場の創造的な活用事例も出てきています。
──Wiz Chatの普及率はどれくらい高まっていますか。

本部の利用率は半数を超え、営業店でも順調に利用率は上がってきています。ただし、営業現場ではまだ拠点による差が見られるのが現状です。
Wiz Chatの利用率を地道に引き上げていくことももちろん重要ですが、私たちはそれと並行して、業務に強く効く個別のアプリケーション開発にも注力しています。
とくに営業現場で大きなインパクトを出しているのが、2025年9月に社内リリースした「面談記録作成AI」です。銀行の営業において、お客様との面談後の記録作業は総時間が莫大になる非効率な業務でした。この構造的な課題を解決すべく、現場からのフィードバックも反映しながら開発を進めました。
このツールは、商談前と商談後にスマホのボタンを押すだけで、会話が録音され、議事録が瞬時に出来上がる仕組みです。私たちはこの「魔法のような効率化体験」を実現するキラーコンテンツを戦略的に投入することが、社員の業務負荷を軽減し、モチベーションと利用率を一気に押し上げると考えています。現在はパワーポイントを自動作成するアプリなど、次なるキラーアプリの開発を進めています。
AIによる全自動化が理想ではありますが、個々の細かい業務にまで個別最適化を進めると、採算が合わなくなるという現実的な限界があります。そのため、私たちは営業上の課題を丸ごと捉え、もっとも多くの時間を奪っている業務から改善するという戦略を採っています。

