メンバーの判断に寄り添い、諭す。AIエージェント「CSおかん」
──データ分析の民主化と同時に、AIエージェントの活用にも挑戦されたそうですね。
平野 顧客数が増える中、カスタマーサクセスは迅速な判断とアクションが求められています。NRR(売上継続率)の達成に向けてアップセルを狙うべきか、チャーン防止を優先すべきか──。ときには判断に迷ってしまうこともありました。
そこで構築したのが、AIエージェント「CSおかん」です。顧客の利用データや「27グリッド」で整理したオペレーションといった多角的な学習データに基づき、週次・月次の優先アクションの確認、突発的な顧客対応のネクストアクションを相談できます。
平野 たとえば「更新連絡のメール文を作成してほしい」と打ちこむと、テキストを作成するだけでなく「この顧客はチャーンリスクが高いため、自動更新のメリットを強調したメールにすべき」といった具体的なアドバイスを回答してくれます。
最終的な意思決定は人が行いますが、「CSおかん」と壁打ちできることで、判断の質とスピードを高めています。また、「CSおかん」に学習させるために判断基準やオペレーションを言語化したことで、ナレッジシェアの基盤が整ったという副次的効果も生まれています。
樫木 メンバーに相談する前に「CSおかん」と壁打ちして具体的な方向性を固められることで、会議がスムーズになり、チーム全体の負荷削減にもつながっています。
TOPPANデジタル ICT開発センター プロダクト推進部
(現:TOPPAN 情報ソリューションBU マーケティングDX事業部 ビジネストランスフォーメーション本部 CS部 4T)
樫木 彩乃氏
平野 「CSおかん」という名称は、樫木の発案によるものです。メンバーに寄り添いながら時には厳しく諭す、まさにぴったりのネーミングでした(笑)。「SaaSビジネスに詳しいおかん」というユニークな設定で、「おかんに相談しよう」が日常会話になるほどチーム内で定着しています。
2つの軸を中心にVOCを構造化。PdMとの連携を再設計
──3つめの課題として挙げていた「VOCをプロダクト開発に活かす連携」については、どのように進めたのでしょうか。
樫木 「review-it!」のリリース当初より、顧客ニーズをプロダクト改善に活かすため、VOCの収集を続けてきました。しかし、顧客数の増加に伴ってニーズが多様化・細分化し、「そのすべてをプロダクトに反映すべきか」という課題に直面しました。
また、「こういう機能が必要ですか?」と先回りしてお伺いすることもありました。顧客課題を解決したいという思いからの行動でしたが、結果として顧客の真の課題を十分に深掘りできていない部分もありました。
そこで、PdM(プロダクトマネージャー)とデザイナーを巻き込み、VOCの取り扱い方を根本的に見直しました。社数単位での集計も行いつつ、「ユーザーがやりたいこと」「深刻度」の2つの軸を中心にVOCを分類したのです。
【1.ユーザーがやりたいこと】
機能要望に留まらず、体験価値のどこに課題があるのか見つけ出す
- 変更点や差分を正確に把握したい
- 表記やルール遵守を確認したい
- 確認作業を効率化したい
- 結果を関係者と共有したい
- 校正結果を証跡として残したい
- その他(新規機能のヒントになるようなもの)
【2.深刻度】
顧客体験に与える影響に応じてVOCを分類
- 深刻度 高:運用で回避できない
- 深刻度 中:回避はできるが体験が悪い
- 深刻度 低:あれば便利
この分類により、「この要望を挙げる企業は多いが、深刻度は『低:あれば便利』」というケースが可視化されました。
その結果、要望の多さだけでは見えなかった優先度の違いが明確になり、顧客体験への影響度を踏まえた判断が可能になりました。この判断を基に、優先度が高い要望についてもすぐに開発へ連携するのではなく、課題の発生背景や本質的な要因を追加ヒアリングしたうえでPdMとデザイナーが機能・UI設計に落とし込み実装するプロセスへ変更し、価値を最大限に活かす体制が整いました。
