増加するSaaS、顧客の前に立ちはだかる「4つの壁」
──はじめに、田中さんが現在のSaaS市場をどう見ているかを聞かせてください。
私はこの14年、あらゆるSaaSの成長に関わってきましたが、今の市場で起きているのは「良い製品=売れる製品」という等式の崩壊です。顧客の前には、もはや製品の良し悪し以前に、4つの大きな壁が立ちはだかっています。
SIerにてSEとしてキャリアをスタート。その後、Salesforce、Slackにて日本・グローバルのトップパフォーマーとして成果を上げ、マネジメントとしても組織の急成長を牽引。株式会社リーディングマークでは、HR Tech「ミキワメ」の立ち上げから参画。0から累計6,000社以上の導入を牽引し、売上を20倍、顧客単価を5倍へと引き上げる。現在は株式会社Charm代表として、自身が経験した「現場のリアリティ」と「経営の抽象度」を往復する独自の「Charm Method」を構築。IT/SaaS領域を中心に、中大型案件の攻略と高収益組織への変革を支援している。
──4つの壁とはなんでしょうか。
ひとつめは「同質化の壁」。どのSaaSも、いわばある程度良い状態になっていて、機能差では選べなくなっています。

ふたつめが「情報の壁」です。国内のBtoB SaaS製品は1万2,000を超えると言われていて、同じカテゴリーの中に50もの選択肢があることも珍しくない。顧客はまず、情報を整理して遮断しないと選ぶことができないわけです。

──残りのふたつはどんな壁なのでしょうか。
3つめは「感情の壁」です。導入によって得られる利益よりも、失敗したときに自分が負う損失のほうが大きく感じられる。そのため、合理的には前に進むべき場面でも、意思決定が止まりやすくなります。

4つめが「対立の壁」です。BtoBの購買に関わるステークホルダーは平均6.8人以上(CEB/Gartner "The New Sales Imperative", HBR, 2017)と言われており、購買チームの74%が、意思決定の過程で不健全な対立を経験しています(Gartner Sales Survey, 2025)。

──なるほど。顧客はそもそも、決められない状況にあるんですね。
そうなんです。それなのにベンダー側は、「新機能だ」「AIだ」と次々に打ち出してくる。4つの壁を前に立ち尽くしている顧客に、さらに選択肢を積み上げているわけです。

