「点」の接触を「面」に変える パーソルキャリアの挑戦
セッション冒頭、モデレーターを務めたGainsightの和久井氏は、両社のビジネスモデルの違いに着目した。SaaSとして継続的な利用が前提となるSansanに対し、パーソルキャリアが支援する「人材採用」の領域は、ニーズ発生のタイミングが不定期になりがちだ。
「採用というビジネスは、ある種お客様とのお付き合いが『点』になってしまいがちです。そこをどうやって『面』で接し、長く接点を持てるように取り組まれているのでしょうか」(和久井氏)
これに対し、パーソルキャリアの川嶋氏は、人材業界特有の難しさと、それを克服するためのデータ活用の重要性を語った。
「すべてのお客様は新規から始まりますから、最初はたしかに『点』です。とくに中途採用の場合、中小企業のお客様では数年にひとりしか採用しないケースも珍しくありません。しかし、採用ニーズはいつ発生するか予測が難しいため、我々は毎月ご連絡をすることを非常に大切にしています」(川嶋氏)
単なる御用聞きではない。最近の採用トレンドの共有や、組織課題のヒアリングを通じて、「人が辞めている」「事業が急拡大している」といった採用の前兆となる情報をキャッチする。同社では、このプロセスを徹底した顧客管理(CRM)によって支えているという。
さらに川嶋氏が強調したのは、「顧客満足度」を精神論ではなく、経営指標として組み込んでいる点だ。
同社では、顧客の状態を段階的に定義している。「サービスを知っている」レベルから、「中途採用といえば転職サービス『doda』」という純粋想起へ。さらに利用後の「サービスが良かった」という体験を経て、最終的には「他社にも薦めたい」「来年も使いたい」というロイヤルティの高い状態を目指す。

「営業担当者には、『お客様の満足度指標を今年度はどこまで持っていきたいか』という目標を立ててもらい、その達成に向けて取り組んでもらっています。具体的にはNPS(ネット・プロモーター・スコア)やNRS(ネット・リピーター・スコア)を活用し、『来年度も弊社のソリューションを活用していただけますか』という問いへの回答を、営業の評価にも直接反映させています」(川嶋氏)
売上金額だけでなく、顧客の「推奨意向」や「継続意向」を評価制度に組み込む。さらに、顧客接点の頻度さえもログとして残し、評価項目とする徹底ぶりだ。和久井氏が「売上以外の指標を持ち、プロセスや評価の改善に取り組まれているのが素晴らしい」と評すると、川嶋氏はその運用のポイントを次のように明かした。
「重要なのは、同じ形式でデータを取得し続けること。流行りの指標が出てきたからといってコロコロ変えてしまうと、数字の連続性が失われ、経年変化が見えなくなります。経営として『これをやり遂げるのだ』という覚悟を持ち、中期的な計画の中で指標を追い続ける意思決定が不可欠です」(川嶋氏)
パーソルキャリアのような大規模組織において、若手からベテランまで動きを変えるには「ファクト」が必要だ。経営の揺るがない意思と、データドリブンな文化が、同社の既存顧客戦略を支えている。

