業績絶好調の裏に潜む「美しいサイロ」という危機
講演の冒頭、五十嵐氏は2024年当時のCTCを「美しいサイロ」と表現した。売上と純利益はともに過去最高を記録し、15年間にわたり右肩上がりの成長を続ける同社だが、その内部では組織の分断(サイロ化)が静かに進行していたという。
「当時、全社でマーケティングオートメーションツールは16個にも上り、営業活動は個人の経験と勘に頼る属人的なものでした。データ活用は進んでおらず、人材育成もOJT頼みで、ハイパフォーマーへの依存度が高い状態でした」(五十嵐氏)
堅調なIT需要の増加や、長年築いてきた顧客基盤、社員1人ひとりの努力によってCTCは業績を伸ばし続けてきた。だが、経営層には「体力があるうちに改革しなければ、いずれ“ゆでガエル”になる」という強い危機感があったという。

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 CROグループ 営業戦略本部 全社営業企画部 シニアスペシャリスト 五十嵐淳氏
CTCで全社セールスイネーブルメントを担当。経歴はキーエンス、PTC、IBM、NCR、ベンチャー起業など。営業部門マネジメントや事業創出、人材育成に携わってきた。
この危機感を原動力に変えたのが、経営トップの強力なリーダーシップだった。2024年4月、全社の営業戦略を統括するCRO(Chief Revenue Officer)グループが発足。サイロ化した組織を横断する改革の司令塔として、その重い舵を切ったのである。
知的資本経営とセールスイネーブルメント
CTCの改革の根幹には、中期経営計画の要諦として掲げられた「知的資本経営」という理念がある。これは、財務的な成果(利益)を、目に見えない資産である知的資本(人的資本、組織・構造資本、関係資本、情報資本)に積極的に再投資し、そこから生まれる新たな価値を再び事業成長につなげていくサイクルを指す。同社はこれを「CTC 5.0」と名付け、同社の第5世代の経営モデルとして推進している。
そして、この壮大な経営システムを支える取り組みの中核に位置づけられているのが、セールスイネーブルメントである。五十嵐氏は、セールスイネーブルメントの本質は単なる営業強化ではなく、「人材育成とデータ活用を通じて、営業活動の『勝ち筋』を自動更新し続けるメカニズム」であると定義する。
「最新のエアコンが内部を自動で掃除するように、組織内にも常に自浄作用が働くメカニズムを組み込むことが大切です」(五十嵐氏)
変化の激しいIT業界では、一過性の成功パターンはすぐに陳腐化してしまう。活動から得られたデータを分析し、常に勝ち筋を更新し続けるこの循環こそが、企業の持続的な成長を支えると五十嵐氏は語る。