インサイドセールスとは
インサイドセールスとは「inside=内側の」「sales=営業」という意味から、非対面で営業活動を進める「内勤営業」を指します。インサイドセールスの主な業務内容は、大きく分けて以下の3つです。
- リードナーチャリング(リードの育成):購買意欲を高める
- リードクオリフィケーション(リードの見極め):確度の高いリードを選別する
- 商談創出:初回訪問のアポイントを獲得する
具体的には、Webサイトからの問い合わせや展示会で名刺交換をしたリード(見込み顧客)に対してアプローチして購買意欲を高め、受注確度が高まったタイミングで商談を創出してフィールドセールスへと引き継ぐ役割です。リードへのアプローチ方法は、電話やメール、チャットやオンライン商談ツールなどを用いて、非対面で行います。
日本では、営業プロセスの分業体制の一つとして、インサイドセールスはマーケティング部門が獲得したリードを引き継いで確度を高めてから、フィールドセールスへとトスアップする役割を担うことが一般的です。しかし、企業によっては商談や受注までインサイドセールスが担当する企業もあり、活用方法は企業によって多岐にわたります。
インサイドセールスは客先に訪問する必要がないため、移動や調整にかかる時間が削減され、そのぶん多くのリードにアプローチできます。そのため、限られた人手でも効率的に営業活動を進められる点がメリットです。
また、リードナーチャリングやリードクオリフィケーションでは、リードとのやり取りの履歴を細かく蓄積しておく必要があるため、履歴を追いやすくなります。情報を一元管理するため営業の属人化を防ぐこともでき、ノウハウやナレッジの共有が可能になります。
フィールドセールスとは
フィールドセールスとは「field=現場の」「sales=営業」という意味から、客先へ訪問して商談を行う「外勤営業」を指します。
企業によっては、フィールドセールスがアポイント獲得から商談、契約締結までの一連の営業プロセスを担当します。しかし一人ですべての営業プロセスを行うことは負担が大きく、各リードを手厚くフォローできないために受注率が低くなることも珍しくありません。そこで営業プロセスを分業化し、インサイドセールスが創出した商談にフィールドセールスが訪問し、契約締結までを担うことが一般的になってきました。
フィールドセールスは見込み顧客と対面でき、非対面のインサイドセールスよりも関係性が構築しやすいと言えます。また、商品やサービスを直接見てもらえるため、商品・サービスの魅力を伝えやすい点もメリットです。
ただし、遠方の客先の場合、交通費や出張費などのコストがかかります。また、移動時間が必要となるため、1日に対応できるのは4~5件ほどが限界となり、膨大な商談をこなすには向いていません。
インサイドセールスとフィールドセールスの違い
営業プロセスを分業化するにあたり、インサイドセールスとフィールドセールスはどのような点でどのように違うのか、具体的な違いを「役割」「営業手法」「目標(KPI)」という3つの観点から解説します。
役割の違い
インサイドセールスとフィールドセールスは、営業プロセスの中での役割において大きな違いがあります。
インサイドセールスの大きな役割は、リードナーチャリングと商談創出です。具体的には、マーケティング部門が獲得したリードを引き継いでリードナーチャリングを行い、確度の高いリードを選別してアポイントを獲得し、商談を創出します。
それに対して、フィールドセールスの主な役割は、商談実施と受注獲得です。インサイドセールスが創出した商談を実施してさらに購買意欲を高め、リードの決裁フローをサポートして受注へとつなげます。
従来は、一人の営業担当者がインサイドセールスとフィールドセールス両方の役割を担っていました。しかし、営業担当者によって「アポイント獲得が得意だけど、商談が苦手」「受注獲得が難しい」というように、スキルや得意・不得意によって成績に差が生じかねません。
そのため、役割の異なるインサイドセールスとフィールドセールスで営業プロセスを分業し、自身の得意分野の専門性を高めて全体で成果を高める手法が一般化してきました。
営業手法の違い
インサイドセールスとフィールドセールスは、営業手法の点でも違いがあります。
インサイドセールスは、電話やメールなどを活用して非対面で営業活動を進めますが、近年は、チャットやLINEを使った手軽なコミュニケーションや、オンライン商談ツールで顔を見ながらコミュニケーションが可能になりました。非対面で営業活動を進めるため、業務の場所の制限がなく、テレワークとも親和性が高いと言えるでしょう。
一方のフィールドセールスは、対面で営業活動となるため、顧客のもとを訪問したり、会議室を借りたりして、直接対面して商談を行います。
目標(KPI)の違い
インサイドセールスとフィールドセールスは役割が異なるため、目標とするKPIの指標も異なります。
インサイドセールスの主なKPIは、以下の通りです。
- 架電数
- メール配信数
- 開封数・率
- 商談創出数・率(アポイント獲得数・率)
一方、フィールドセールスの主なKPIは以下になります。
- 商談実施数(訪問件数)
- 見積り提出数
- 受注数・率
- 受注金額
このようにインサイドセールスとフィールドセールスのKPIは異なりますが、インサイドセールスで「受注数・率」や「受注金額」をKPIとして設定することもあります。インサイドセールスがあらかじめ見込み顧客の購買意欲を高めていれば受注につながる確率が高くなるため、受注率や受注金額などでインサイドセールスの質を測ることが可能です。ただし、受注するかどうか、どのくらいの金額かは、フィールドセールスの努力に左右される部分があり、インサイドセールスの貢献度の割合は考慮すべきでしょう。
なぜインサイドセールスとフィールドセールスに分業化するのか
前章のように、営業プロセスをインサイドセールスとフィールドセールスに分業する営業体制が増加しています。分業化が進んでいる背景について解説します。
「The Model」型の営業プロセスが広がっている
1つめが、「The Model(ザ・モデル)」と呼ばれる営業プロセスの概念が広がったことです。The Modelとは、セールスフォース社が提唱する営業プロセスモデルで、一連の営業プロセスを以下の4つに分けて分業することを指します。
- マーケティング
- インサイドセールス
- フィールドセールス
- カスタマーサクセス
The Modelが広がった背景には、「インターネットの普及による購買行動の変化」と「サブスクリプション型ビジネスの台頭」という2つの要因があります。
今までの消費者は営業担当者から情報を入手して購入を検討していましたが、インターネットが普及し、消費者自らがSNSや口コミサイトなどで手軽に情報を入手できるようになりました。そのため、従来のような画一的なアプローチでは成果が出なくなっており、一人ひとりと適切な関係性を築いて購買意欲を高めていき、競合他社とは差別化できるようなアプローチ方法が求められるようになったのです。
また、サブスクリプション型ビジネスが台頭し、従来のような「売ったら終わり」というような買い切りのビジネスとは異なり、「売ってからも継続して使い続けてもらう」という観点が重視されるようになりました。したがって、マーケティングからカスタマーサクセスまでの一連の営業プロセスを通じて一貫した顧客体験を提供し、解約を減らして売上を安定させることに比重が置かれるようになっています。
このような背景から、インサイドセールスとフィールドセールスの分業体制が一般化してきているのです。
人手不足の中でも生産性向上が求められている
インサイドセールスとフィールドセールスの分業化が求められている理由の2つめが、限られた人的リソースで生産性を向上させていかなければならないためです。
日本は、少子高齢化の影響で慢性的な人手不足に陥っている現状です。今後ますます少子高齢化が進むため、人手不足の改善は見込まれていません。
しかし、人手不足だからと言って現状維持で良いわけではなく、ビジネスを成長させ続ける必要があります。そのためには、人的リソースが限られている中で、いかに生産性を向上させるかといった工夫が求められるでしょう。
営業プロセスの分業化によって、それぞれのリードの確度を十分に高めてから商談を実施できるようになり、受注率を向上できます。人手不足でも成果を出せる営業体制を構築できるため、分業体制は現代の日本にマッチしていると言えるのです。
コロナ禍を契機に非対面営業を好む顧客が増えた
コロナ禍の3密回避やソーシャルディスタンス維持などにより、非対面でのやり取りを希望する顧客が増加しました。2020年12月に実施されたHubSpotの調査では、非対面営業を好む顧客は38.5%となり、訪問営業を好む顧客(35.0%)を超えています。コロナ禍での調査だったため今では少し違った数値となっている可能性もありますが、この調査結果からは非対面営業を好む顧客は一定数いることが予測されます。
このように、非対面営業が受け入れられるようになったことも、インサイドセールスとフィールドセールスの分業化が進んでいる要因と言えるでしょう。
インサイドセールスとフィールドセールスの連携による効果
インサイドセールスとフィールドセールスを分業するからと言って、それぞれが独立して機能するわけではありません。お互いに密に連携を取り合って、成果を高めていくことが重要です。
インサイドセールスとフィールドセールスの連携を強化させることで、得られる効果を紹介します。
【両方】自身の業務に集中できる
分業して連携し合うことで、それぞれ自身の業務に集中でき成果を高めることが可能です。
一人ですべての営業プロセスをこなすと、負担が大きくなり対応の漏れや遅れを生じやすくなります。顧客数が増え過ぎると一人ひとりを適切にフォローできず、失注が増えかねません。さらに、人によって得意分野が違うため成果にバラつきが生まれ、組織全体で一定の成果を出すことが難しくなるでしょう。
しかし営業プロセスの分業により、インサイドセールスは確度の高い商談創出、フィールドセールスは受注に向けた商談実施という、それぞれの役割に特化して業務を遂行できます。その結果、業務の質が向上して成果があがり、組織全体の営業効率が高まるでしょう。
【両方】データを基に戦略を立案できる
分業して連携し合うためにはお互いの情報共有が必要になるため、自然と営業活動に関するデータを蓄積する体制が構築できます。蓄積したデータはお互いに活用し合い、より精度の高い戦略を立案できるでしょう。
たとえばフィールドセールスは、インサイドセールスが蓄積している過去のやり取りやヒアリング事項などのデータを活用し、商談での提案内容を考案できます。インサイドセールスは、フィールドセールスの商談結果から、受注率の高い顧客層やチャネルを分析し、ターゲティングやアプローチ方法などの戦略に活かせます。
【インサイドセールス】獲得したリードを取りこぼさない
従来のように一人でアポイント獲得から商談実施まで担当していると、どうしても商談にかける比重が大きくなり、膨大なリード数に対応しきれず取りこぼしが増えてしまいます。せっかく電話やメールで関係性を築けても、商談数が多過ぎるとなかなか重要な商談を実施する時間をとれず、見込み顧客の購買意欲が低くなっていき失注する可能性も高いでしょう。
しかし、分業体制によってインサイドセールスがリードへのアプローチに専念できれば、リードの取りこぼしを防げるようになります。電話やメールでの営業の進め方がしくみ化されているため、膨大な数のリードにも対応でき、営業効率を高められるでしょう。
【フィールドセールス】確度の高い案件に集中できる
マーケティング部門が接点を持った見込み顧客の購買意欲はすべて同じではありません。リードすべてに対して一件ずつ訪問することになると、受注確度が低い商談も実施しなければならず、購買意欲が低くてすぐに断られたり、関係性が構築できていないため警戒されたりするなど、非効率な運用になるでしょう。
しかし営業プロセスの分業化を行うと、インサイドセールスがリードとの関係性を築いて購買意欲を高めてくれるため、フィールドセールスは確度の高い商談に集中できます。リードへのアプローチや対応をすることもなくなるため、提案内容をブラッシュアップして受注率を高められるでしょう。
インサイドセールスとフィールドセールスの連携の取り方
インサイドセールスとフィールドセールスは、連携し合うことにより成果につながります。しかしポイントを押さえなければ、連携がうまくいかずに失敗しかねません。
そこで、ここではインサイドセールスとフィールドセールスの連携の取り方を解説します。
役割分担とKPI設定を行う
分業・連携するうえで、適切な役割分担とKPI設定は必須です。
役割分担ができていない場合、自身の業務範囲が明確になっていないため業務に集中できません。「この業務は向こうがやってくれるだろう」と思い、対応の漏れが生じて失注につながることもあるでしょう。
こうした非効率な運用を避けるためにも、営業プロセスにおける具体的な役割分担が必要です。さらに、両部門それぞれに適したKPIを設定し、自身が目指すべきところを明確にすることが重要となります。
リード情報や活動情報をシームレスに共有する
分業体制で課題になりがちなのが、情報共有です。リードの課題やニーズ、今までのやり取りの履歴などの情報が共有できていないと、重複してアプローチしてしまったり、フィールドセールスが最適な提案をできなかったりするなどのリスクが懸念されます。
インサイドセールスとフィールドセールスがスムーズに連携するためには、情報をシームレスに共有できるしくみ作りが必要です。各リードへの対応履歴を一元管理したり、フィールドセールスへリードを引き継ぐタイミングでミーティングを行ったりしましょう。後ほど解説する、ツールの活用も有効です。
ホットリードの定義を明確にする
インサイドセールスは、ナーチャリングして確度が高まったリードをフィールドセールスへと引き継ぎます。この確度が高い状態のリードを「ホットリード」と言います。
ホットリードの状態は、人によって認識が異なるため注意が必要です。たとえばAさんの場合はホットリードを「3回やり取りしたリード」と認識していても、Bさんは「電話でヒアリングをしたリード」と認識していることがあります。人によって認識に違いがあると、リードの購買意欲が高まっていないのに引き継いだり、引き継ぎのタイミングが遅くなってリードの購買意欲が下がってしまったりする事態を招きます。
したがって、インサイドセールスとフィールドセールスでホットリードの定義を明確にしておき、最適なタイミングで引き継ぐことがポイントとなります。
ホットリードを見極める際には「スコアリング」という方法を活用するのも一案です。スコアリングとは「メールを開封したら1点」「ヒアリングできたら10点」などとリードの行動を点数化し、行動履歴に合わせて加点していく方法です。点数が高いと購買意欲も高いと判断できるため「〇点以上ならアポイントを獲得して商談を創出する」などと、両部門で明確に定義しておきましょう。
適切なツールを導入する
インサイドセールスとフィールドセールスの情報共有をスムーズにするには、適切なツールの活用が欠かせません。おすすめのツールの種類は、以下が挙げられます。
- SFA(営業支援ツール):顧客情報や案件情報などの営業活動に関わる情報を一元管理できる
- CRM(顧客関係管理ツール):顧客情報や購入履歴などの顧客に関する情報を一元管理できる
- ビジネスチャット:関係者とリアルタイムでやり取りができる
これらのツールを活用し、情報共有を促進しましょう。
まとめ
インサイドセールスとフィールドセールスは、営業プロセスにおける役割や営業手法などが異なりますが、分業化をするうえで両部門の連携は欠かせません。インサイドセールスとフィールドセールスの連携においては、役割分担や情報共有のしくみなどが重要です。別々に独立した部門として見るのではなく、「違いを活かして連携することで強化できる」という視点で捉え、連携体制を構築する必要があります。
本記事の内容を参考にし、インサイドセールスとフィールドセールスの分業化を実現して生産性を高めましょう。