CSのマインドセットとは? 「CS=CX+CO」の本質的理解
山本氏が所属するリコーITソリューションズは、リコーグループ内の開発機能を担う「技術のプロフェッショナル集団」である。
特徴的なのは、自社に営業組織を持たない点だ。製品・サービスの販売や顧客へのアプローチは、グループ内の販売会社であるリコージャパン(全国約7,600名の営業担当者を擁する)が一手に引き受けている。この「開発(リコーITソリューションズ)」と「販売(リコージャパン)」の機能分担は、グループの強みである一方、CS活動においては構造的な課題も生んでいた。
「営業担当者からすれば、『なぜ自分たちの顧客に勝手にコンタクトするのか』という反応が出ることもありますし、顧客側も『それはいつもの営業担当に任せているから』と取り合ってくれないこともあります」と、山本氏は当時の苦労を振り返る。グループ全体でCSを推進するには、「組織間の調整」という高いハードルが存在していたのだ。
しかし、山本氏は、だからこそ「CSの本質的な定義」に立ち返る必要があったと語る。同社ではカスタマーサクセスを、単なる手法(メソッド)としてだけでなく、まず「概念的なコンセプト・マインド」として定義している。その基本方程式が「CS(顧客の成功)=CX(優れた体験)+CO(求める成果)」(※)である。
※「CS」=Customer Success、「CX」=Customer Experience、「CO」=Customer Outcome
「顧客が求める成果(CO)をつくることは当然として、そのプロセスにおいて『早く』『再現性高く』『エフォートレス(手軽)に』価値を感じてもらう、『優れた体験(CX)』が伴って初めて、真の成功(CS)と言えます」(山本氏)
山本氏はさらに、「CXとCOのウェイトは商材や役割によって動的に変化する」という独自の洞察を披露した。

たとえば、SaaS商材であれば顧客の利用データから成果を把握しやすいため、CX・COどちらも重視した活動が可能だ。一方、金融やSIといった非SaaS商材では、顧客の状態が把握しづらく成果(CO)が見えにくいため、良好な関係構築(CX)の比重が高まる。
また、役割別に見ても、導入前のセールス段階では成果(CO)はあくまで仮説に過ぎないため、商談プロセスにおける信頼醸成(CX)が重要となる一方、緊急時のサポート対応では、長期的な成果よりも目の前の迅速な解決体験(CX)が最優先される。
「顧客との関係を築きながら価値を届けるという本質は、職種や商材を問わず共通します。CSは特定の部署だけのミッションではなく、顧客と接点を持つすべての従業員が共有すべきマインドセットなのです」(山本氏)
この普遍的な哲学を定義したことで、開発会社である同社がCSに取り組む意義が明確になった。しかし、理念だけでは現場は動かない。次なる課題は、この理念を具現化するための「組織」と「仕組み」づくりであった。

