1977年のカタログイノベーションで「営業なしでも売れる」仕組みを実現
――最初に吉田さん、深田さんの今の役割を教えてください。
吉田 ミスミはカンパニー制を採用しており、ファクトリーオートメーションなど工場で稼働する設備や装置の機械部品を扱うメーカー事業や、他社ブランドを扱う流通事業などがあります。2018年に「meviy」サービスを展開するカンパニー「ID企業体」が新設されまして、私はそこの社長として事業を全般的に見る立場です。
深田 私は「ID企業体」のマーケティング推進室リーダーとして、Salesforce Sales Cloud、Pardotの活用推進を軸に営業・マーケティングの効率化を進めています。
――ミスミさんは1977年、営業が不要な仕組み「カタログイノベーション」で業界を大きく変えました。第1のイノベーションの背景にはどのような課題があったのでしょうか。
吉田 当時、機械部品を買いたいお客様は、部品の形状や材質、各部分の長さなどを書き込んだ設計図面を作成してFAXで送り、見積もりを依頼していました。1週間後に部品メーカーから見積もりが返ってきて、そこで初めて価格や納期がわかる。それから電話で営業と交渉をして注文し、納期は2週間後という世界だったのです。創業者の田口弘は、注文を受ける部品の多くに共通している部分があることに気づき、基本的な部品を規格品として販売することにしました。部品の要素から規格表を作り、価格と納期をすべて記載してカタログにしたのです。カタログで選べる機械部品に関しては設計図面も不要で、見積もりを取ることもなく、短納期で手に入るということで製造業ではミスミのカタログが大ヒットしたというわけです。
現在、カタログで扱っている商品は約3,100万点で私の知る限り世界最大です。何十年もカタログを毎年作って見込み客を含むお客様に送付しており、カタログは営業担当者としての役割を果たしてきました。現在はグローバルでも、約31万社以上のお客様がいます。世界中のものづくりの現場に確実短納期で部品を提供させていただいているという意味で、当社は「ものづくりの社会インフラだ」と考えています。お客様から「電気、ガス、水道、ミスミ」と言っていただくこともあるくらいです。
「営業をしない」と言ってもボイスオブカスタマー(VoC:お客様の声)は常に集めていて、それを集約した形で新製品に落とし込んでいます。ミスミの組織哲学に「スモール・イズ・ビューティフル」があり、これは「創る」「作る」「売る」の機能をワンセットでチームに持たせていることにも現れています。一般的な日本企業は、製造と営業が機能別の組織になっていますが、それらをワンセットにすることでお客様からのニーズを素早く商品に反映できています。
――2016年にスタートした第2のイノベーション、3Dデータで精密機械部品の調達ができるオンラインサービス「meviy」開始のきっかけについても教えて下さい。
吉田 実は、meviyの構想自体は1985年から始まっています。カタログのビジネスモデルは非常にイノベーティブでしたが、ものづくりの現場では、独自の形状を持つ部品を必要とすることも多く、ここまで取り扱い部品を増やし続けてもカタログだけで購入できる部品は半分ほどなのです。カタログで選べる部品は早く届きますが、カタログで選べない複雑な部品はこれまでと同様に設計図面を作成し、FAXで見積もりを依頼し、長い製造納期を待つこととなります。お客様側は部品がすべて揃わないと設備や装置を完成させられませんから、複雑な部品に関しては「待つ」時間が発生してしまっていることで、ものづくりのスピードが速くならないという大きな課題がありました。この課題に対し、我々ミスミはものづくりの社会インフラである企業として長年研究開発を重ねながら解決策を模索してきました。
meviyはこの「カタログでは選べない、図面を書いてFAXを送らなければならない部品」をターゲットとしたクラウドサービスです。設計データをウェブサイトからそのままアップロードするだけで、部品の形状などを自動的にAIが認識し、3秒ほどで価格と納期を表示します。お客様が注文ボタンを押せば、設計データが工場の機械に転送され、加工が始まります。この工程も、以前は人間が1時間ほどかけて、紙の設計図面を見ながら加工を行う機械にプログラムを入力していましたが、meviyでは設計データからプログラムを自動生成して工場の加工機械に転送することで、デジタルデータだけで見積もりから加工までを一気通貫で行っています。
meviyを使うことで、カタログにはない部品を発注する際にも、設計データさえあれば即時見積もり、最短で即日出荷が可能になりました。受注してその日のうちに加工して出荷することができるのは、世界でもミスミだけだと思います。