既存のオンプレミスを脱却 新CRM発足の背景
──今回の新CRMの構築は営業力と顧客体験の双方を高めること、そしてシステム面の課題を解消するところにあったとうかがっています。
武井 出発点は顧客データの一元化です。銀行は、さまざまなお客さまのデータを保有していますが、それが複数のシステムに分散されてしまっているケースも多い。
たとえば、本部が営業推進のために提供する情報も顧客軸ではなく、「プロダクト軸」になってしまっていました。営業担当者は、各プロダクトから発信される情報を見て、自分の担当先のお客さまに案内すべきかどうかを判断しなければいけません。担当によって情報収集のレベルや速度に差が出てしまっているというのが営業課題でもありました。
ここで、行内の情報はもちろん、行外にある一般的な情報も含めて、お客さまのことをひとつの画面で理解できる世界をつくりたいと考えました。
ちなみに新CRMは社内では、「EPOC(empowering our customersの略)」という愛称で呼ばれています。自分たちが目指すのはお客さまのより良い体験。そのために営業担当者を支援するツール、という位置づけです。英語の「epoch」には新時代のような意味もありますから、お客さまと常に新しい時代の最先端を走っていきたい、そんな思いを込めたダブルミーニングにもなっています。
──営業課題としては、ほかにどのようなものがありましたか。
武井 「提案切り口の拡大と準備負荷の削減」が必要だと考えていました。営業担当者はどうしても個人の経験や好みによって、特定の商品に提案が偏ってしまうことがあります。良い事例の共有や、新たな提案に踏み出すためのサポートが不足していました。
一方で提案書もただ共有するだけではあまり意味がありません。汎用的な提案書では、いまどき「もう知ってるよ」と思われて、お客さまとの議論が深まらない。そこで、今回の新CRMではお客さまに合わせた資料を担当者に届けられるようにしたことも大きなポイントです。
加えて「アクションの高速化」。若手の担当者が新規のお客さまとの接点を持った際、質問への回答方法や次のステップへの進め方で悩んでいるケースが多かったのですが、本部も大きな案件のサポートで手一杯になってしまい、若手のサポートが手薄になっていました。
──若手・新人をサポートするため、という側面も強いのですね。
武井 自分で練りに練ることも当然大切なのですが、お客さまに教えてもらうことで積める経験は大きいです。ただ、何も持たずに行って教えてもらうわけにもいきませんから、そのあたりを現場任せにせず、経験を積むためのサポートをしていこうという思想です。
──システム側ではどのような課題があったのでしょうか。
村岡 もともと行内にあったCRMは20年ほどオンプレミスで開発していました。ここから機能のアップデートなどを行うとなると、時間もコストも非常にかかってしまうのが課題でした。また、既存のCRMは事務・管理目的の側面も強く、期日やスケジュール管理には優れているものの、お客さまの情報蓄積や本質的な営業推進機能が弱い点も課題でした。
村岡 営業拠点にいたときも、「世の中ではこれがトレンドなのに、なかなかうちの行内のシステムには反映されないな」と思ったこともあって(笑)。実際に本部に来てみると、日々さまざまな機能が検討・反映されています。ただし、現場で必要なものをタイムリーに反映していくには、既存システムでは限界があると感じました。