部門を越えて「顧客主語」で語る“小さな一歩”
どれだけ重要な情報を集めても、それが個人や部門の中だけにとどまっていては意味がない。現場でよくあるのが、「このお客さん、実は◯◯なんだよね」という気づきが、誰にも共有されずに埋もれてしまい、次の接点にまったく活かされないケースだ。こうした断絶を防ぐには、「顧客を主語として語る」ための、情報共有の仕組みを整える必要がある。
まず取り組みやすいのは、部門横断で顧客情報を共有する場を設けることだろう。部門横断の定例ミーティングも有効だが、開始しやすい“小さな仕組み”として「日報の共有」もシンプルかつ実践的だ。
たとえば、イノーバでは社内チャットにマーケティング部門・営業部門が共通で使う日報のルームを設けている。そこでは各部門の担当者が日々の業務の中で得た気づきを投稿し、管理職を含め、関わるメンバー全員がいつでも自由に閲覧・コメントできる。
これにより、たとえば、インサイドセールス担当者の「最近お客さんと話していると、こういう課題が多い気がする」といった投稿を見たマーケティング担当者が、その内容から仮説を立て、セミナーやコンテンツの企画立案・実行へつなげるといった連携が生まれている。実現した施策は、お客様から「ちょうどその話題で悩んでいたところだった」「うまく言語化できなかった課題を、的確に整理してくれて助かった」と喜んでいただくことも多い。
このように、現場が得た生の顧客情報が組織内で循環し、部門をまたいで具体的な施策につながっていく状態は、顧客起点の組織にとって非常に強力な武器になる。

部門間の断絶を防ぐ、全体最適のマネジメント
各部門は異なる専門性を有するからこそ、それぞれの視点から見えている風景も異なる。そのため、どうしても部門最適化しがちになり、最悪の場合、部門間の対立にまで発展してしまうこともある。日報やミーティングといった仕組みを整えるだけでは、この問題は解決できない。
こうしたズレや衝突を未然に防ぐためにも、部門横断で顧客情報の流れを俯瞰し、部門をまたいだ意思決定ができる統括的なリーダーがいることが望ましい。そうすることができれば、「顧客起点」の精度はより高まる。

イノーバでも、分業体制を導入した当初はマーケティング部門と営業部門で責任者が分かれていた。しかし、現在はリード獲得から受注まで部門をまたいで管理する統括リーダーが配置されている。部門横断の俯瞰的なマネジメント体制があることで、分業体制でありながらも一連のプロセスが自然につながり、各担当者からも「業務の連携が各段にスムーズになった」と好評だ。
このように体制を変えてからは、リードの商談化率や受注率も向上しており、顧客にとってもよりスムーズで納得感のある購買体験が実現できていると感じている。 カスタマーモデルを実現していくうえで、全体をつなぐ仕組みや役割が備わっていることは大きな支えになるだろう。
