「活動報告は頑張らなくていい」 データ収集の3つの施策
しかし、ただツールを導入しただけではデータは集まらない。そこでデータを収集する「しかけとしくみ」が重要だと吉原氏は指摘する。同社では、3つの施策を行ったという。
ひとつめが、入力の手間を抑える施策。活動報告は、できるだけ「選択式入力」にした。先述のとおり、1日30~40件訪問する営業にとって、1件あたり長文で報告するのは大きな負担になる。
そこで、活動報告のアプリはスマホで操作することを前提に、商材や実施した活動をリストから選択するしくみになっている。
「1件登録するのに、20秒しかかかりません。営業メンバーには『活動報告はがんばらなくていい』と言ってあります。とくに共有したい内容があるときだけ、テキストフィールドに入力してもらえればいい、とアナウンスしています」(吉原氏)

このしくみによって一行動一報告の習慣を促進し、データの蓄積につなげている。
それでも、「何のために入力するのかわからない」と、データ入力に意味を感じられない営業もいる。そういったメンバーに対しては「データの自分ごと化」がポイントになる。これがふたつめの施策である。
同社では、kintoneに入力された営業データを、MotionBoradが吸い上げ、販売管理システムの売上実績と結合した月1のレポートを作成。作成されたレポートは「dejiren」というツールを通して営業担当者自身が引っ張ってこられるだけでなく、Teamsを通して全社員に共有される。
「たとえば、売上が伸びているのに行動量が少ない場合、歯科医院の患者さんが増えているだけの可能性があります。その場合、能動的な行動によってもっと売上を増やせるはず。こういった分析をマネジメントに活かすことができます」(吉原氏)
この月1のレポートに対して、営業担当者1人ひとりが活動量の振り返りや売上実績の考察、目標を達成するための行動計画の策定を行う。こうした取り組みによって、データ活用が自分ごと化していくという。
また、SFA/CRMを推進する立場として吉原は、「現場の人が必要だと気づいた機能は、すばやく実装することが大事」だと強調。「売上実績と行動量の関係を見たい」という現場のマネージャーの要望に応えて、グラフを参照できる画面を作成した。

取締役常務が営業メンバー全員の活動報告をチェック
3つめの施策「トップダウンの利用」も、データ入力を促すにあたって効果的だったと吉原氏。
このSFA/CRM導入の取り組みはスモールスタートで、一部の営業所から始まった。最初の営業所を選ぶ際に、DXに前向きで熱量があるマネージャーがいて、メンバーにしっかり定着させてくれそうなところから始めたという。
その後、全社展開にあたっては、社長が「マネージャーは活動報告に必ずコメントするように」と指示。マネージャーからのリアクションがあることが、次の入力につながるからだ。
同社の取締役常務は、営業メンバー全員の活動報告に目を通しているという。常務が全社に共有したい活動報告は「おすすめ」ボタンを押すだけで共有できるようになっており、これもメンバーのモチベーション向上につながる。
「常務は『活動報告のチェックがCRM/SFAの価値をつくる』と言います。DX推進担当者や営業の人たちが価値をつくるのではなく、マネージャーとか取締役など上の立場の人たちが価値をつくる、という考え方が重要です」(吉原氏)
また、マネージャーの個別のフィードバックだけでなく、実際の人事評価に結びつけることも重要だ。キャリアアップの指標として、経験年数や目標達成率などの定量的な最低要件があるが、それに加えて定性評価も必要になる。活動報告アプリでの投稿数やおすすめされた数が、定性評価の根拠になるという。
「マネージャー向けにSFA/CRMの勉強会を実施したときには、人材活用のマトリクスを提示しました。営業メンバーの状態と業務軸に合わせた人材活用を促すものです」(吉原氏)
吉原氏は「いちばん右側が肝」と言い、マネージャー自身がメンバーに合わせてSFA/CRMを活かしたマネジメントができているか、振り返りを促した。

こうした地道な活動の結果、営業の行動量データが安定的に蓄積されるようになった。
活動報告数は、施策実施から1年で7.3倍に増加し、現在までその数をキープしている。さらに、マネジメントにもよい影響が生まれている。マネジメントに関するアンケートの中で、社員の7割以上が「マネジメントの質が良くなった」と答えたという。