営業の「勘」を「確信」へ──改革の一歩としてのBIツール導入
──プラス様のDXの取り組みを拝見すると、単なる業務の「効率化」に留まらず、営業という仕事の「質」そのものを変革しようとされている熱量を感じます。そもそも、この大きな改革に取り組んだ背景には、どのような危機感があったのでしょうか。
鳥海 プラスは1948年の創業以来、事務用品の卸売からスタートし、メーカー、そして独自の流通業へと領域を広げてきました。
しかし、事業部を独立した会社のように扱うカンパニー制を敷いているため、全社視点で見れば、部門ごとにシステムも集計方法もバラバラという「データの分断」が深刻な課題となっていました。
これに加え、文具のメーカー事業を担うステーショナリーカンパニーの国内営業部門においても、現場固有の課題が存在していました。具体的には、Excelによる手作業の集計が中心となっており、データ活用が一部の担当者に依存する「属人化」が起きていたのです。
私が現場を横で見ていて一番歯がゆかったのは、営業担当者が膨大な時間を「集計作業」に費やし、本来もっとも価値を発揮すべき「顧客への提案を考える時間」を奪われていたことでした。
プラス株式会社 デジタル統括部門 データストラテジー部 部長 鳥海淳一(とりうみ・じゅんいち)氏
──作業に追われる現状を打破するために、具体的にどのような策を講じられたのでしょうか。
鳥海 2023年、当時のステーショナリーカンパニー国内営業部門責任者であった今泉壮平(現・取締役)の主導でBIツール「Tableau」を導入し、現場主導の可視化に着手しました。
ここで私たちが強く意識したのは、BIを単なる「集計するためのツール」にするのではなく、誰もが同じデータを見て、自ら「課題を見つけるためのツール」にすることでした。IT部門が数字を加工して渡すのではなく、現場が直接データに触れ、スピード感をもって改善サイクルを回せる状態を目指したのです。
経験則を「データで」裏づける──売上65%伸長の裏側
──「バイヤーを通じて店舗に商品を納品し、近隣の小学生に手にとってもらう」という学習帳の商流において、データを活用した提案が、ある量販チェーンで売上65%増という驚異的な成果につながったそうですね。この成功の裏側には、どのような変化があったのでしょうか。
鳥海 「地図分析」というデータ活用手法を取り入れ、営業スタイルが変化したことが売上伸長の大きな要因です。
象徴的な例が、グループ会社の日本ノートが手掛ける「学習帳」の提案です。私たちは、小学校が新学期に使うノートを指定する「学校採用」において非常に高いシェアを持っています。この精緻な採用データは、本来であれば商談における強力な武器になるはずのものでした。
しかし以前は、その貴重なデータが営業担当者の個人知識やバラバラの資料に埋もれており、組織として活用しきれていなかったのです。そのため、店舗への提案はどうしても「この地域はうちが強いはずだ」という勘や経験に頼らざるを得ず、バイヤー様に対しても客観的な根拠に基づいた納得感を示せていませんでした。
──その眠っていたデータを、どのように可視化したのですか。
鳥海 小学校の採用データと、店舗の位置情報を地図上で統合しました。特定の量販店の半径数キロ圏内で「実際に配られているノート」を可視化したのです。商談でこの地図を見せながら根拠を持って伝えると、お客様の反応が劇的に変わりました。「そんなことまで知っているのか」と。
この可視化は、さまざまなメリットをもたらしました。量販店のバイヤー様は「売れる確信」を持って最適な棚を作ることができ、小学校の子供たちは家の近くの店舗で「学校で指定されたノート」を確実に買えるようになる。現場の営業担当者は、「データを使えば、こんなに提案が刺さるんだ」と実感し、価値ある提案ができるようになる。
三者すべてがWin-Winになるこの取り組みにより、データが現場の「説得力」に直結する成功体験となりました。

