競合との差別化の鍵は「文脈」 自社データと外部データの“融合”が鍵
では、この現状をどうすれば打破できるのか。内藤氏はその答えとして「相手の状況を可視化した“顧客目線”の営業」が差別化の鍵だと強調した。
「必要なのは、“なぜあなたに、なぜ今か”という“文脈”を丁寧に設計することです。これは営業の現場でよく耳にする言葉かもしれませんが、単なる営業テクニックではありません」(内藤氏)
この“文脈”の設計を支えるのが、営業データの基盤構築だと内藤氏。具体的には、自社が持つデータに、ウェブ行動ログや企業の採用動向、資金調達、サイト閲覧履歴などの外部データを融合するのだという。

「実は、名刺交換すらしていない企業が自社サイトに訪れているかどうかを特定する技術や、どの企業がどの外部メディアで情報収集しているかを検知する仕組みがすでに存在しています。つまり、接点のないアノニマス(=匿名状態)な企業を特定し、行動を察知することが可能になっているのです」(内藤氏)
ポイントは「外部データだけでは提案精度が上がらない」という点だ。外部データだけを基にリストを作成すると、営業担当者が「この顧客は既存の取引先かもしれない」「ほかの営業が提案中かもしれない」などとアプローチをためらってしまう可能性がある。「中にはこれまでの経緯から、アプローチしてはいけない企業が入っている場合もある」と内藤氏は指摘する。
だからこそ、自社内で保有するデータと外部データを掛け合わせることが重要となる。自社データである商談履歴、顧客との接点やヒアリングの有無、キーパーソンの情報や過去の失注率などがプラスされることで、営業担当が「今、動く理由」が明確になり、自信を持ってアプローチできる状態を整えられる。これが、営業データ基盤の役割となる。
提案精度を高める「4つの指標」
では、具体的にどのようなデータを用いて、優先的にアプローチする企業を見極めれば良いのか。内藤氏は、次の4つの指標を用いて整理した。

まずは「接点強度」、つまり「近いところからいこう」というスタンスだ。受注実績、過去商談、名刺の有無などから接点強度を測っていく。とくに受注実績がある既存顧客への提案は、新規商談に比べ5分の1の工数で済むという。
次の「適合度」は、「類似企業からいこう」というもの。既存顧客と類似した企業は、課題感やニーズが似ており、受注確度が高い。業種やフェーズ、売上推移や資金調達、従業員数などが、比較すべき要素となる。
3つめの「関心度」は、まさに外部データにあたる。自社サイトや外部メディアのアクセスログ、採用活動の動向、組織変更や人事異動といった推移データから、今動いている企業を把握する。
4つめの「ヒアリング情報」について、内藤氏は「それぞれの企業が積み上げてきた顧客の声こそ、まさに宝の山。得られた情報の質が受注率に直結する」と強調した。企業の課題や関心事はもちろん、導入サービスやその契約更新の時期など、「生の会話からしか得られない情報」を、いかに資産化するかが分水点だという。
「商談フェーズやキーパーソンとの話、予算やタイミングなどのBANT情報など、“進行中”の商談について情報収集している企業は多いが、“失注”タイミングこそ重要」だと内藤氏。この失注タイミングで、「失注した理由」や「次回提案すべき時期」など、次に活かせる情報を登録できるかどうかが、今後の商談化率や精度の高い提案に直結するという。
内藤氏はこれらの4つの指標に基づき、「接点強度×適合度」のマトリクスでアプローチ先の優先順位をつける方法を紹介した。

「このマトリクスは、接点のない企業にアプローチすることを否定するものではありません。戦略的に開拓したいターゲットもあるでしょう。ただ、限られた営業リソースの中で、今すぐ成果を出すためにどこに注力するかを判断するための参考軸になります」(内藤氏)