「選ばれる営業体験」の減少、営業組織の疲弊──BtoB市場の現状
インフォボックス 執行役員の内藤氏は、10年以上にわたりSFAやCRMの領域に携わってきた営業支援のプロフェッショナルだ。
冒頭で、「本講演では、『提案精度が高い』=『案件化率が高い』ことを意味します」と内藤氏。
「インフォボックスでは、提案精度を高める取り組みをした結果、過去に接点のあった顧客の案件化率がインバウンドと同等、もしくはそれ以上になっています。このセッションを通じて、提案精度を高めるためのエッセンスをお伝えできればと思っております」(内藤氏)

株式会社インフォボックス 執行役員 事業責任者 内藤陽太氏
セールスフォース・ジャパン在籍中にはもっともイノベーティブなインサイドセールスに贈られるCEOアワードを2度受賞。スタートアップにて新規事業セールス&インサイドセールスチームの立ち上げ等を経験後、インフォボックスへ。1人目のBizDevとしてジョイン。
本題に先立ち、内藤氏は現在のBtoB市場における“買い手”と“売り手”双方の変化についての認識を共有した。
これまで買い手側は、買いたい商品を扱う営業にコンタクトし、営業からもらった比較資料などを見ながら購入を検討していた。しかし、現在は比較サイトや口コミサイトの普及により、買い手が自ら情報を調べ、検討することが当たり前になっている。加えて、ChatGPTやGrokなどの生成AIが登場し、営業に接触する前にAIにたずねるといった購買プロセスも一般的になりつつある。
「つまり顧客がどのように情報を集め、何を判断材料にしているのか、営業から見えにくくなっています。営業との接点を持つ前の検討プロセスがブラックボックス化しているのです」(内藤氏)
一方、営業する側も苦しい状況にある。AIを実装した自動化ツールが普及することによって、パーソナライズ化の乏しいアプローチメールが乱発され、買い手の購買体験が悪化するリスクがある。買い手にとっては、営業からの連絡が「迷惑なもの」になりかねない。結果、「選ばれる営業体験」が減少しているという。
さらに売り手側は、慢性的なリソース不足にも直面している。展示会やウェビナーを実施することで、得られる名刺やリードは増えているものの、顧客接点を追いかける営業人数は不足しているため、営業組織が“疲弊型オペレーション”に陥っているのだ。
この「検討プロセスのブラックボックス化」「自動化による負の影響」「人手不足による疲弊」という3つが、BtoB市場の現状だと内藤氏は語る。
競合との差別化の鍵は「文脈」 自社データと外部データの“融合”が鍵
では、この現状をどうすれば打破できるのか。内藤氏はその答えとして「相手の状況を可視化した“顧客目線”の営業」が差別化の鍵だと強調した。
「必要なのは、“なぜあなたに、なぜ今か”という“文脈”を丁寧に設計することです。これは営業の現場でよく耳にする言葉かもしれませんが、単なる営業テクニックではありません」(内藤氏)
この“文脈”の設計を支えるのが、営業データの基盤構築だと内藤氏。具体的には、自社が持つデータに、ウェブ行動ログや企業の採用動向、資金調達、サイト閲覧履歴などの外部データを融合するのだという。

「実は、名刺交換すらしていない企業が自社サイトに訪れているかどうかを特定する技術や、どの企業がどの外部メディアで情報収集しているかを検知する仕組みがすでに存在しています。つまり、接点のないアノニマス(=匿名状態)な企業を特定し、行動を察知することが可能になっているのです」(内藤氏)
ポイントは「外部データだけでは提案精度が上がらない」という点だ。外部データだけを基にリストを作成すると、営業担当者が「この顧客は既存の取引先かもしれない」「ほかの営業が提案中かもしれない」などとアプローチをためらってしまう可能性がある。「中にはこれまでの経緯から、アプローチしてはいけない企業が入っている場合もある」と内藤氏は指摘する。
だからこそ、自社内で保有するデータと外部データを掛け合わせることが重要となる。自社データである商談履歴、顧客との接点やヒアリングの有無、キーパーソンの情報や過去の失注率などがプラスされることで、営業担当が「今、動く理由」が明確になり、自信を持ってアプローチできる状態を整えられる。これが、営業データ基盤の役割となる。
提案精度を高める「4つの指標」
では、具体的にどのようなデータを用いて、優先的にアプローチする企業を見極めれば良いのか。内藤氏は、次の4つの指標を用いて整理した。

まずは「接点強度」、つまり「近いところからいこう」というスタンスだ。受注実績、過去商談、名刺の有無などから接点強度を測っていく。とくに受注実績がある既存顧客への提案は、新規商談に比べ5分の1の工数で済むという。
次の「適合度」は、「類似企業からいこう」というもの。既存顧客と類似した企業は、課題感やニーズが似ており、受注確度が高い。業種やフェーズ、売上推移や資金調達、従業員数などが、比較すべき要素となる。
3つめの「関心度」は、まさに外部データにあたる。自社サイトや外部メディアのアクセスログ、採用活動の動向、組織変更や人事異動といった推移データから、今動いている企業を把握する。
4つめの「ヒアリング情報」について、内藤氏は「それぞれの企業が積み上げてきた顧客の声こそ、まさに宝の山。得られた情報の質が受注率に直結する」と強調した。企業の課題や関心事はもちろん、導入サービスやその契約更新の時期など、「生の会話からしか得られない情報」を、いかに資産化するかが分水点だという。
「商談フェーズやキーパーソンとの話、予算やタイミングなどのBANT情報など、“進行中”の商談について情報収集している企業は多いが、“失注”タイミングこそ重要」だと内藤氏。この失注タイミングで、「失注した理由」や「次回提案すべき時期」など、次に活かせる情報を登録できるかどうかが、今後の商談化率や精度の高い提案に直結するという。
内藤氏はこれらの4つの指標に基づき、「接点強度×適合度」のマトリクスでアプローチ先の優先順位をつける方法を紹介した。

「このマトリクスは、接点のない企業にアプローチすることを否定するものではありません。戦略的に開拓したいターゲットもあるでしょう。ただ、限られた営業リソースの中で、今すぐ成果を出すためにどこに注力するかを判断するための参考軸になります」(内藤氏)
「今アプローチすべき企業リスト」の作成方法
続けて内藤氏は、企業リスト作成プロセスの一例を紹介した。

「適合度の高い企業リストを作成する方法はふたつ」と内藤氏。ひとつは、業種や売上、従業員数などの変数の組み合わせパターンを分析したうえで、共通の特徴を抽出し、同条件の企業を探索する方法。もうひとつは、公開事例から企業をピックアップし、類似サービスを提供している企業や、同じフェーズにいる企業を探していくという方法だ。
「リストから、先ほど伝えた4つのポイントになぞらえ、接点強度が高く、インテントが高いところからアプローチしていきます。自社のマーケティング部署と連携しつつ突き合わせていくと、今アプローチをすべき企業の優先順位が明確になるはずです」(内藤氏)
AIと営業の共創を目指す──インフォボックスの強みとは
今後はこのプロセスをAIが代替し、提案してくれる時代になっていくという。こうしたアプローチを支援するのが、インフォボックスが提供する営業データプラットフォーム「infobox」だ。その特徴は、自社データ、ウェブ行動ログ、外部データなどを組み合わせ、アプローチすべき企業を一覧化・スコアリングできる機能を搭載している点。また、SalesforceやHubSpotとの連携も可能だという。さらに、部署情報やキーパーソン情報、導入サービス、直通番号といった追加調査にも対応し、適合度を求めていくための受注分析機能やインテントデータの収集も行っている。

セッションの最後に、内藤氏はこう締めくくった。
「比較サイトやAIの普及により、サービス検討の初期段階がブラックボックス化している時代だからこそ、“なぜあなたに、なぜ今か”という文脈を設計しなければなりません。その基盤となるのが、自社と外部のデータを融合した営業データ基盤です。AIと営業が共創しながら、買い手目線かつ創造的な営業体験を設計していく。そこに営業の未来があると、私は確信しています」(内藤氏)
営業データプラットフォーム「infobox」
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