トップダウンと現場発を両立 多層的な仕組みでAI活用を「自分事」にする
──「AI活用を現場にいかに浸透させるか」が多くの企業で課題となっています。御社ではどのように浸透を図っていますか。

浸透については、トップダウンとボトムアップの両面のアプローチが存在します。
まず、トップダウンとしては、本部から「使ってください」というメッセージを徹底し、生産性向上につながることを積極的にアナウンスしました。さらに、業務で利用できるプロンプト集を社内ポータルサイトで提供しています。
一方で、ボトムアップとしては、Wiz Chat上での数字分析など、現場から出てきた創造的なインサイトに私たち開発側も驚かされることがあります。こうした活用事例は、社内SNSやWiz Chatのユーザー会などで活発に議論されており、現場の熱量を感じています。
しかし、拠点によってAI活用の進捗に差があるのも事実です。とくに上席者が業務改善に強い思い入れがあるかどうかが影響します。私たちは「トップの意識が変わればすべてが変わる」と考えており、実際、先日、頭取にAIエージェントのつくり方を私が直接教えるという取り組みを実施しました。その様子は社内向けに公開され、「自分にもできるのではないか」という社員のモチベーションを醸成する狙いがあります。
このほかにも、社員向けに生成AIの基礎講座を定期的に開催したり、デジタル戦略部が「キャラバン隊」として各店舗に赴いたりするなど、あらゆる手段で普及活動を継続しています。
「現場と開発の壁」をどう乗り越えるか
──開発側として現場浸透を進める中で、「現場が求めるもの」と「開発部門がつくりたいもの」のバランスを取るのは難しいかと思います。現場と開発の壁をどう乗り越えていますか。

現場のニーズを聞くことはもちろん大切ですが、それだけではバイアスがかかってしまいます。私たちは、セキュリティ課題や採算面なども考慮しつつ、「自分たちが目指すプロダクト像」を持って並走しています。
現場のニーズを、開発側が自分のニーズであると錯覚できるくらいのめり込んでいる、つまり「現場のニーズ」と「開発者の想い」がオーバーラップすることが重要だと感じています。
そのためには、両者の視点を融合させる徹底した対話が不可欠です。まず「なぜその機能が必要なのか」という本質を深く掘り下げて議論し、その結果、機能追加ありきで考えるのではなく、「そもそもその業務プロセス自体を見直した方が早いのではないか」という視点に気づけることもあります。つまり、単にシステムを開発するだけでなく、「最適な業務プロセスそのもの」を見つけ出すことが重要なのです。
この対話を深めるため、現場からアイディアが上がってきたら、プロトタイプアプリを数週間という早さで作成しています。初期段階の簡素なものでもすぐに現場に渡し、フィードバックを早期にもらいます。このフィードバックを開発に取り入れ、アプリを磨き込んでいきます。この「早めに渡して、早めに磨く」というサイクルを徹底しています。
