部署間で「共通基盤」を持つことの重要性
山田 弥生さんでは、当初カスタマーサクセスのような活動をされてこなかったとのことですが、最初はどのような状況だったのか教えてください。
銭谷 弊社のカスタマーサクセスの活動は、成り立ちとしては、カスタマーサポート部門の中の一部のチームの業務から始まりました。マーケティングでカスタマーマーケを担当している部署から“社内受注”という形式で、「電話をしてほしい企業のExcelリスト」をもらい、カスタマーサクセスチームがアプローチを行ったのが最初のスタートでした。
具体的には、会計ソフトなので、お客様の決算月から逆算したタイミングで、「決算に向けたご用意・ご準備状況はいかがですか?」とうかがうわけです。旧ソフトにおいて、利用状況から、どうやら4ヵ月めを乗り越えられたお客様は、リニューアルに向けて使っているお客様らしいとわかってきていました。ゆえに「3ヵ月めを落とさなければ、4ヵ月めも乗り越えられる」という仮定のもとで、電話をかけるのです。

山田 これは、カスタマーマネジメントの専門用語で「リニューアルマネジメント」と言いますね。お客様の更新に向かって、何かしら先手を打ってアクションしていき、サポートのチャンスを能動的につくりにいく手法です。弥生さんの場合、リニューアルマネジメントはしていたけれども、購入後の支援とうまくつながっていなかったと。

銭谷 そのとおりです。そもそも商品を使っていただく前提が成立していないタイミングで、このような活動をしてしまっていたのです。たとえば、「ご利用いただけていらっしゃいますか?」と電話をかけても、「いや実はちょっと設定に困っておりまして……」と、かなり振り出しに戻ることもありました。それならば、購入直後にご案内を差し上げるほうが重要なのではないか、と活動自体を根本的に見直すことになりました。この見直しを昨年実施しました。
山田 専門用語で言えば、「エリアマネジメント」における「オンボーディング」ですね。ご契約後に「セットアップを一緒にしましょう」「基本的な扱い方はこうですよ」といったサポートを行うのは、ほとんどのケースで、確実に効果があると証明されている手法です。でも、カスタマー“サポート”の文脈から考えていると、意外とオンボーディングの発想に至らないことが多いんですよね。
弥生さんでは、カスタマーサクセスの本格的な導入を開始したことで、どのように環境が変わっていったのですか?
銭谷 前提として、営業のアップセル・クロスセルにつながるようなデータの可視化ができていませんでした。そこでまず、Salesforceの導入から始め、ソフトバンクさんと同じくGainsightも導入しました。そのうえで、電話ツールとしてMiiTelを、インサイドセールスとカスタマーサクセスで一緒に活用することで、プリセールス・ポストセールス問わずに、同じデータを共有できる環境を整えました。
お客様の購買の導線としては、ご自身でオンラインストアから購入いただくパターンと、営業担当がご案内差し上げて受注に至るふたつの経路があります。後者に関しては、プランの認識の違いは起こりづらいだろうと言える一方、ご自身でプラン選択された場合には、カスタマーサクセスが初めて会話をする弊社社員になるため、プランのすり合わせが必要になる場合がありました。ここをしっかり確認することで、支援全体のスピードアップを図れるようになりました。

山田 部署横断でMiiTelを使われているのは重要かもしれませんね。別にカスタマーサクセスプラットフォームにこだわる必要はなくて、部署間で共通のツールを使って、共通の顧客基盤を持つということがいちばん重要だと思います。
ただし、チケット管理制のサポートツールだと、アカウントメッセージをマネジメントできないので、カスタマーサクセスには向かない。だからこそ、CRMのようにアカウントメッセージをマネジメントできるツールが必要になります。御社はそのあたりに、早い段階で気づかれていたようですね。
銭谷 営業の責任者など、外資系の経験者が割と入社してきていたので、何かしらの顧客管理システムが必要という認識がスタンダードになっていたのが大きいでしょうね。
山田 ちなみに、MiiTelの録音データはどのように活かされているのでしょうか。
銭谷 たとえば、提案タイミングのMiiTelのログを、カスタマーサクセスの担当者が聞きに行くことができます。お客様の年齢層や性格、スタンスなどを把握し、どのようなご案内を求めていらっしゃいそうか、雰囲気を確認できます。
山田 「リソース配置が柔軟にできるようになった」というのは、具体的にどういうことかお聞かせ願えますか?
銭谷 データを活用することで、このお客様は会計業務に理解がある方なのかどうか、過去に他社製品を含め会計ツールを使ったことがあるのかどうかが可視化されます。どのレベルの支援が必要なのかがわかることで、どのアカウントにどれだけのリソースを割くべきか判断しやすくなりました。
山田 やはり、チケット管理制の1つひとつの問い合わせがベースになっている状態ではなくて、アカウントベースで顧客を管理できることで、一貫した支援ができるようになりますね。繰り返しになりますが、こうした“アカウントベース”のツールを何かしら用意したほうが良いだろう、というのが私の見解です。
顧客の“アウトカム”につながる本当のカスタマーサクセスへ
山田 カスタマーサクセスにおける基盤整備には終わりがないと言われますが、今後のどのように拡充させていきたいか、おふたりの野望のようなものはありますか。
小林 お客様がどう思ってらっしゃるのか、という情報の精度をもっと高めていきたいですね。定性的なデータと、フィールド的なデータと、多くのデータを組み合わせることによって、よりデジタルにお客様に触れ合える環境を整えていきたいと思っています。
チームの人数も限られていますし、その中でより多くのお客様と接点を持つにはツールの力も借りて、人が注力すべき業務に注力できる環境を作り上げなくてはなりません。まだ、どうしても“自社のアウトカム(※測定可能な成果)”までしか見えていない部分もあるので、最終的には“お客様にとってのアウトカム”までつなげていける“本当のカスタマーサクセス”を達成できるようにしていきたいと思っております。
銭谷 これまで、とにかくデータを蓄積・集中させる取り組みをしてきました。ここからは、蓄積されたデータをより活かせる、デジタルでの活動に軸足をシフトしていきたいと思っております。我々も、人力でやっていた単純作業を、デジタルに移していくことによって、人の価値を発揮できる業務に人が割り当てられる状態にするのが直近での目標ですね。
山田 小林さん、銭谷さん、ありがとうございました。