「カスタマーサクセス」が重要なビジネスモデルの特徴
山田 という前提で、カスタマーサクセスにおけるツール導入経験のあるおふたりにお話をうかがっていきます。導入に際して、いろんな課題やご苦労があったと思いますが、ソフトバンクさんはいかがでしたでしょうか。
小林 どの企業でもあることだと思いますが、当社でもお客様の契約情報などが社内の複数のシステムに跨っていました。たとえば、カスタマーサクセスや、お客様のフォロー・サポートをしようと思ったとき、そもそものお客様の状態を知るための情報が、散在しており、蓄積したデータを活用しきれいませんでした。
また、活かせる成功事例もカスタマーサクセスチーム内のメンバーに属人化しがちで、組織として横展開しづらい状況でした。こうした状況の中、対応企業数が増えれば増えるほど、担当者への負荷や依存度が高まってしまいます。そこでこれらの課題を解決するためにツールを導入することにしました。

山田 ソフトバンクにおけるビジネスモデルや、お客様のサイクルなど、カスタマーサクセスの全体像をお聞かせいただけますか。
小林 はい。メインのプロダクトは“モバイル”でして、お客様には買い切りではなく、レンタルの形で回線を契約していただくことが多いです。一般的なSaaSと異なるのは、年に1回、全ユーザーのライセンスを更新するのではないということです。部署ごとの契約もあります。また、新入社員が入ったタイミング、端末が壊れたタイミングなど、“契約期日”を迎えるタイミングが年に何回も発生するのが特徴です。
昨今は、導入後に通信が使えないという事態もほぼありませんので、「モバイルにおける導入後のオンボーディングやフォローとは何か?」という部分も難しいです。一方で、サポートもフォローもしなければ、知らぬ間に解約されてしまうこともあります。コモディティ化しやすい商材ゆえに、サポート支援や、使い勝手の良さを意識しておかないと、チャーン(※Churn、解約)のリスクにつながるという危機感があります。
山田 つまり、アップセルや、クロスセルをする機会があり、それと同様にチャーンダウン(※Churn Down:プランのグレードダウンや解約)の機会も多いということですよね。このようにプラス・マイナスの機会が多いビジネスでは、カスタマーサクセスは非常に重要になってくるんですよね。ツールがないときはどうやってマネジメントされていたのですか。
小林 毎月お客様の契約情報を社内システムから見て、時間かけて確認して、1つひとつ確認していました。カスタマーサクセス担当者は、営業よりも多くの企業を担当するため、把握しておくだけでも非常に労力が必要でした。
カスタマーサクセスプラットフォームに情報を集約
山田 そのあたりは、ツールの導入前後で改善されたのでしょうか。
小林 はい。現在は活動を支援するツールとしてGainsight(ゲインサイト)を導入しています。まだ、複数の散在しているデータから一部API連携や、CSVでの手動連携などを行っている部分もあるのですが、なるべく必要なデータをGainsightに集約して、見える化する、準備時間を短縮するといった部分に注力しているところです。

小林 お客様の状態を蓄積しつつ、契約情報を元にしたスコアカードによるリスクアラートを表示しています。たとえば、メンバーがお客様とコミュニケーションしたあとのお客様の所感・感情のような定性的な部分も、スコアリングすることで、状態を見える化するように務めています。

山田 契約の“出入り”を把握するだけでもたいへんですよね。
小林 そうですね。SaaSのように明確な満了日があるわけではなく、商材の数も多いので、まだ模索中ではあります。ただ、「お客様が持っているライセンスの数十%が更新するから、このタイミングを起点にしよう」みたいな目安は判断しやすくなってきたと感じています。毎月確認するのと比較すれば、お客様側のご負担も軽減できるアプローチになるだろうと。
山田 やはり、お客様数や契約者数が多い事業だと、こうしたツールが効果を発揮するんですよね。これだけでも業務効率が10~15%上がったりすることも珍しくないですから。
ところで、スライドの右下に書いてある「型化の推進を行い、新人でも迷わない活動を」について具体的に教えてください。
小林 今、システムの中で、ベストプラクティス(模範事例)のことを、“タスク”として管理をするようにしています。要するに「このお客様が、○○の状態だったら、このアクションしてください」という示唆を具体的に出せるようにしているのです。
山田 つまり、ノウハウがない人でも、システムが必要なタイミングで、効果的なアクションを教えてくれると。
小林 はい。それ以外にも、システムとは別のところで、初回の訪問時にはこの提案書を持って、こういうふうにお客様にご案内し、提案書の中にはこういう内容を盛り込む、というように共通で使えるフォーマットを用意しています。
山田 基盤ができたからこそ、このような施策が提供できるようになっているんですね。