固定観念から脱却し、1社1社に深く入り込む覚悟を
──今後のチャレンジについて教えてください。
今回のセールスモデル改革は、フルカイテンにうまくフィットしました。これからの課題は再現性を高めることです。
たとえば、エクスパンションに対応できるメンバーとそうでないメンバーが混在しています。これまでの分業体制に慣れているメンバーは、どうしても新規案件を獲得したいと意識しがちなんです。
しかし既存顧客へのアプローチは、新規獲得において最大の壁となる“信頼構築”のステップをスキップすることができる。実は非常に効率的なアプローチなのです。この感覚をすべてのメンバーに浸透させるのが課題です。エクスパンションの成功事例を共有したり、マネージャー自らが背中で見せたり、継続的な働きかけが必要だと感じています。

──エンタープライズセールスに取り組む方々へ、メッセージをお願いします。
エンタープライズセールスに取り組む方々に伝えたいのは、大きくふたつあります。
まず、「SaaS=分業」という固定観念から離れて考えてみることです。たとえば、営業が1社のアカウント全体の売上責任を持つ体制へ変更したのは、非常に有効でした。カスタマーサクセスが解約阻止とアップセル/クロスセルの両方を担うのは難易度が高いケースもあるので、自社の状況に合わせて役割分担を見直す価値はあると思います。
もうひとつは、BDRやインサイドセールスが疲弊したときの対応についてです。同じターゲットリストへアプローチを続けると、二巡、三巡するうちに「もうこのマーケットではアポイントを取れない」という感覚になり、担当者が疲弊します。
そのとき選べる道は、ターゲットを広げるか、1社1社に深く入り込むかのどちらかです。ターゲットを広げるほうが心理的なハードルは低いですが、エンタープライズ向けのSaaSは、単にターゲットを広げても成果が出にくいことが多い。むしろ腹を括って深く入り込むことがABMの本質だと考えています。業界理解を深め、より精緻なコンテンツで切り口を増やし、1社1社に真摯に向き合うことで、再び商談が獲得できるようになる可能性が高いのです。
もちろん、新たなターゲット層の検証も行うべきですが、成果が見込めなければ深掘り戦略に集中する。そうした切り替えが重要です。その場合もただ「今の市場に注力しなさい」と言うだけでなく、将来的なプロダクト拡充や新市場開拓の計画も明確に示していくことで、組織のモチベーションも維持できると思います。

──本日はありがとうございました!