受注率の分析でわかった“勘違い”
──岸良さんのもとには、事業責任者クラスの方からABMに関する質問が寄せられているとうかがいました。どのような課題が多いのでしょうか?
いかにして大手企業の商談を獲得するか。この点に悩んでいる方が多いですね。多くのSaaS企業が取り入れる一般的な分業型モデルでは、マーケティングがリードを集め、インサイドセールスが商談を獲得して営業が受注するというプロセスをたどります。しかし大手企業の役職者、とくに部長以上や役員クラスはそもそも母数が限られているうえ、忙しくていちいち広告をクリックしないことが多いんです。
そうした中で商談を獲得しようと分業型モデルを継続すると、リード獲得のための広告費用が膨らみ続けてしまう。そこで、多くの事業責任者がABM(Account Based Marketing)にたどり着きます。その実践的な情報を探す中で、ABMについてnoteで発信をしている私のもとに直接問い合わせが来るのでしょう。

──フルカイテンでも、エンタープライズセールスに挑戦する中で同様の課題にぶつかったのでしょうか?
はい。私たちも、リードが商談化しないという課題を抱えていました。マーケティングチームは非常に優秀で、試行錯誤してリードを獲得し、KPIを達成していました。しかし、そのあとがうまくつながらない。KPI設計が良くないのだろうかとも考えましたが、受注率が低い以上、必要なリード数は非現実的な数値になってしまいます。マーケティングのKPIを変えるだけでは解決できません。
加えて、「エンタープライズ×バーティカル特化のSaaS」というフルカイテンのサービス特有の課題もありました。具体的にはターゲット選定の難しさです。
従来のターゲットは、成約した商談のデータから「年商数十億円以上の小売企業」と設定し、バイネームで詳細に絞り込んでいました。そのうえでインサイドセールスがアプローチしていたのですが、それでも受注につながらなかったのです。
今思えば、まだまだターゲットの解像度が粗かったんですね。改めて受注率を分析したところ、実は成約率が高いのは「小売の中でも特定の業界」×「年商数百億円以上の企業」だと明らかになったのです。
ターゲットが広いほうが架電数・商談数は増やせますが、受注率を見れば、本来集中すべき層は明確です。ターゲットをさらに絞り込むことと、ビジネスモデル全体の転換を全社で意思決定しました。