日本がITを活用しているのに生産性が低い理由
ひとつめの要因は「データのサイロ化」だ。基幹システム、名刺管理ツール、マーケティングオートメーション、グループウェアなど、導入しているシステムやツールがバラバラで、情報も分散してしまっている企業がこのパターンにあてはまる。たとえば、グループウェアを導入してマネージャーが営業担当者の訪問先を把握できるようになっても、彼らが行くべき先に行けているかどうかまではマネジメントできない。また、CRMやSFAのような営業支援システムをせっかく導入しても、管理をExcelで行っていては入力や報告の手間が増えてしまう。
「このやり方では同じような内容を何度もフォーマット別に書く必要があるので当然時間はかかりますし、情報が分断されてしまうのでマネジメントに必要な判断材料が集まらず、PDCAが回りません。個別最適のシステムやツールがそれぞれの課題を解決しているだけで、全体的な課題は解決できていないと言えます」(長田氏)
ふたつめの要因は「営業を科学する視点がない」点にある。「営業は結果がすべて」だと思われがちだが、結果が出る前には必ず正しいプロセスが存在している。
「たとえばパン工場の場合、美味しいパンをつくるために材料を配合する、こねる、発酵させる、焼くという工程が見える化されているので品質の改善もできますが、営業は結果に至るプロセスがブラックボックス化されているケースが多く、今月の会議では確度Aランクだった訪問先が、翌月の会議資料では消えている、などということもよくあります。営業は勘や経験、根性に頼った属人的なスタイルに陥りがちで、プロセスマネジメントの考え方が抜け落ちてしまっていると言えます」(長田氏)
3つめの要因として「CRM、SFAが現場に定着しにくい」という点が挙げられる。たとえば、基幹システムの場合はそれがなければ伝票が発行できず、売上を締めることもできないため、使い勝手が悪くても使わざるを得ない。また、基幹システムを主に使う経理担当者の業務はデスクワークが中心で、ITに慣れた人も多い。一方、営業の場合はデスクワークの比重が小さく、Excelやメールで報連相を行うこともできるので、ツールやシステムを導入する必然性が低い。20年前に欧米から上陸したSFAやCRMが、まだうまく日本に定着していない理由はそこにあると長田氏は指摘した。
「国土の広い欧米では、日本のように1日に何件も営業先を訪問することはできないため、案件登録型のツールがシェアを占めています。一方、ルートセールスやフィールドセールスが営業の主流を担う日本で外資系の営業支援ツールを活用するとなると、毎日5〜6件の案件やスケジュールの登録作業が発生するため、そこで挫けてExcel管理に戻ってしまうのではないでしょうか」(長田氏)