クレームへの一次対応が、命運を分ける
営業の頭をもっと悩ませるのが、お客様からのクレームである。できれば起こらないほうがいい。これはすべて営業スタッフが願うことだろう。
営業では“絶好調のときほど、なぜかクレームが発生し失速する”ということが起こる。どれほど連続契約が続いていようが、どんなに表彰されようが、クレーム一発で一気にスランプに陥ってしまう。本当に恐ろしいことだ。

私自身もこれを何度か体験した。
ハウスメーカーの営業スタッフ時代のこと。新年度になり、いきなりラッキーな契約を獲得した。スタートが良いと、気分的に楽になる。それをきっかけに次々と契約を成立させた。なんと、たった3ヵ月で去年の1年分の契約を取ったのだ。
会社では「菊原が今期のMVPになるのでは」と噂されるほど。お客様からの感謝の言葉、上司の絶賛、部下からの尊敬も。最高の状況だったのだ。
そんなある日のこと。建築中のお客様から「菊原さん、現場に来てください」という連絡が入った。電話口のお客様の声や雰囲気から「これはクレームだな」とすぐに理解する。
そのとき、思わず「今ちょっと手が離せない仕事がありまして、それを済ませてから向かいます」と回答した。心のどこかで「私が行くまでの間に現場監督が何とかしてくれるだろう」と思っていたのかもしれない。
少し経ってから現場に行くと、何とも言えない微妙な雰囲気でお客様と監督と話をしている。お客様は私を見るなり「菊原さんには、本当にガッカリです」と言い放った。
原因は、私の指示ミスだった。
工程の確認を怠ったことで、お客様の希望が現場に伝わらず、間違った施工がなされてしまったのだ。一度作った部分を全撤去してやり直すという、大ごとに発展。チェックしていれば普通に防げたこと。単純なケアレスミスだった。
そしてここで、さらに致命的なミスを犯してしまう。
思わず口をついて出たのは「ほかの現場と重なっていまして……」という言い訳だった。お客様の怒りは爆発。そして担当を変えられ、出入り禁止となった。
それまでこのお客様とは非常に良い関係を構築していた。それが一気に台無し。精神的なダメージは計り知れなかった。
この件から一気に流れが変わる。その後、何をしてもうまくいかなくなった。どれだけ頑張って商談してもお客様から断られる。数ヵ月、まったく契約が取れなくなった。さらに現場監督やスタッフとの関係もぎくしゃくし、孤立状態に。クレームの対処を間違ったことで私は地獄に落ちた。
「なぜすぐに現場に行かなかったのか……」
「なぜいらぬ言い訳をしてしまったのか……」
と死ぬほど後悔した。もし誠意ある対応をしていたら、信頼を失うことはなかっただろう。