「確認ゾンビ」がもたらす生産性低下とキャリアの危機
──アワードの受賞おめでとうございます! 受賞のポイントとなった「内製AIによるインサイドセールス改革」について、当時のインサイドセールスチームが抱えていた課題を教えてください。「確認ゾンビ」という、非常に印象的なワードも飛び出していましたね。
ありがとうございます。「確認ゾンビ」は、当時のインサイドセールス、とくにSDRチームが抱えていた苦しみを象徴する言葉です。思考を停止し、ひたすら情報を確認し続ける状態を指しているんです。
当社のインサイドセールスはBDR(Business Development Representative)チームとSDR(Sales Development Representative)チームに分かれており、BDRはフィールドセールスとバディを組み、アカウント専属担当として対応します。
一方、私たちSDRチームはお客様の企業規模を問わずすべてのお問い合わせに対応します。そのため、1社1社の最新の状況を常に把握するのは現実的ではありません。問い合わせがあるたび、SDRチームだけではなく、他部署が保有する過去の商談メモ、活動履歴といった膨大なフリーテキスト情報を、SFAのあちこちを探り、すべてキャッチアップしに行く必要がありました。
とくにエンタープライズ企業は関係者が多く、お付き合いの期間も長くなるため、社内でのコミュニケーション履歴が膨大になります。確認作業に多くの時間を割く「確認ゾンビ」が常態化していました。
──その確認にどれほどの時間がかかっていたのですか。
1件のお問い合わせに対して20分はかかっていましたね。業務時間をかなり圧迫していましたが、この確認作業をスキップすると、お客様にご迷惑をかけたり、社内のほかのチームに支障が出たりします。課題であることは認識しながらも、避けられないコストになっていました。
──「確認ゾンビ」の状態は、チーム全体や顧客対応にどのような影響をおよぼしていたのでしょうか。
主に3点ありました。ひとつが、ずばり生産性の低さです。本来インサイドセールスが時間をかけるべき顧客コミュニケーションに時間を割けず、活動数の向上や受注貢献を目指すうえで、明確な問題でした。
また、顧客体験としても良くありませんでしたね。社内確認に時間がかかるため、ファーストコンタクトが必然的に遅れてしまう。また、人間が確認する以上、重要な経緯やトラブル情報を見落としてしまう可能性もあります。「何も把握せずに連絡してきたのではないか」という印象を与え、顧客体験の悪化にもつながりかねない状況でした。
──モチベーションやキャリアへの影響はいかがでしたか。
これがもっとも深刻でした。いかに確認作業が社内とお客様の満足につながっているとしても、個人のスキルアップやキャリア形成、インサイドセールスとしての専門性を磨く時間には直結しにくい作業です。そのため、自分の仕事に価値を見いだせなくなり、モチベーションが下がってしまう。これは中長期的に見て、離職やメンタルに影響が出る悪影響だと考えていました。

