「販売店が主軸」を前提に、営業の「あるべき姿」を可視化
山下(Xpotential) はじめに、イネーブルメントを推進した組織の体制やミッションについて教えてください。
岡田(エプソン販売) 実は、現時点ではイネーブルメントの専任組織はありません。2024年度までは私の組織が「営業教育」をミッションのひとつとして担い、Sales Cloudによる営業のプロセス管理と実行力向上をメインに、2~3名のメンバーで推進していました。
2025年度からはビジネス営業企画部内の別組織が営業教育を担い、我々の組織がSales Cloudの活用推進を担う形で、分担・連携しながら取り組んでいます。
山下 イネーブルメントに取り組み始めた背景も教えていただけますか?
岡田 2000年代頃まで、当社はコンシューマー向けのインクジェットプリンター「カラリオ」の提供により、市場拡大とともに売上を伸ばしてきました。しかし、商品のコモディティ化が進み、大量生産・大量消費の時代ではなくなる中で、壁が見えてきたのです。
加えて、2014年に法人向けの複合機・プリンター「エプソンのスマートチャージ」(以下スマートチャージ)の提供を開始したことも、私たちにとって大きな転機でした。
当社は販売店を主軸としており、従来、商品の提案や売り方は各販売店に任せていました。しかし、スマートチャージはお客様が抱える課題を理解し、最適な商品やプランを組み合わせて提供しなければなりません。つまり、私たち自身がお客様へ価値を届けるスキルやノウハウを身に着けないと、お客様に真の価値を届けられず、販売店もエプソンの商品を積極的に扱ってくれないという課題が顕在化したのです。

エプソン販売株式会社 ビジネス営業企画部(企画) 部長 岡田 寛さん
2001年エプソン販売に入社し、約20年にわたり法人営業として大手クライアントを担当。その後、北関東エリアの営業課長を務めたのち、現在は営業企画部(企画) 部長として、数百人が在籍するエプソン販売の営業組織の施策立案・企画推進を担当する。
阿江(エプソン販売) 販売店を主軸とした商流を維持しつつも、直販的な考え方やスキル、ノウハウを身につけて付加価値提案を行い、案件数を増やしていく。非常に難易度の高い動き方が求められましたね。
岡田 この課題を解決する手段として、2022年頃からSales Cloudの活用を本格的にスタートしました。エプソン販売の営業組織に、フェーズ管理から商談創出・推進までの一連の考え方を定着させ、スキルを向上させようと考えたのです。
Sales Cloudをセルフマネジメントツールとして活用・定着させるにはどうすれば良いか考え、さまざまなウェビナーや書籍から学ぶ中で、「セールスイネーブルメント」という考え方にたどり着きました。
山下 具体的な施策として、最初にどういったことをされたのでしょうか。
岡田 まず課題だったのは、セールスフェーズの定義やアクションの解釈がばらばらだったことです。営業個々に認識のずれがありました。そのため、営業の得意・不得意や評価が、上司の感覚的な判断になってしまいがちだったのです。
そこで、まずは解釈のばらつきをなくすため、エプソン販売の営業の「あるべき姿」を明確にするスキルマップの作成から着手しました。具体的には、当社の優秀な営業を何人かピックアップし、どのフェーズでどのような行動を取り、どのようなツールを使っているのかをすべて言語化しました。