現場浸透は「10%未満」 100年の歴史が生む抵抗感
続いて都市エネルギー営業本部の一色氏は、セールスイネーブルメントを「提案される側」の立場から、その現状と課題を率直に語った。
DX推進室は社長直下でありながら、推進室と営業本部を兼務する一色氏が間に立つことで、現場の課題とすり合わせながら浸透させていく体制が取られている。
現場から見たセールスイネーブルメントの価値は、「営業の仕方について共通認識を取ること」にあると一色氏は述べる。これまで属人化していた営業方法を明文化することで、成果につながる「型」として定着させることが期待される。これが文化となれば、新人もすぐに自立でき、営業効率化が図られるというメリットがある。
しかし、セールスイネーブルメントの浸透には非常に高いハードルが存在する。東京ガスグループは100年以上の歴史があり、長年培われてきた営業手法を変えることへの抵抗が強い傾向にあった。
山下氏からの「受け入れられている状況を100としたときに、何パーセントくらいか」という質問に対し、一色氏は「10%にも満たない状況」と率直に回答した。これは、従来の「都市ガス販売」という、目に見える形で収益を上げる営業スタイルが根強く、脱炭素や環境価値といった「目に見えない」価値を評価して対価を得るという新しい考え方が想像しにくいという背景もある。
たとえばBIツールでダッシュボードを作成・展開しても、現場からは「何を入力したら数値が上がるのか」といった声が多く、使いこなせていないのが実態だ。 一色氏も、ツールがあるだけでは不十分であり、仕組みを変えるだけでなく、「意識が向いていない」ところにアプローチしていく“人の改革”が重要だと実感している。
