日本のカスタマーサクセスはなぜ「サポート感」が強いのか
向井 カスタマーサクセスの仕事に就きたいと考える営業経験者も増えていますよね。川村さんから見て、営業経験はカスタマーサクセスにどう活きると思いますか。
川村 対お客様の仕事ですから、期待値コントロールであったり、人を巻き込んで何か話を進めたり、といった経験は大いに活きると思います。ただ、日本のカスタマーサクセスはまだサポート色が強いと思っています。
カスタマーサクセスの役割は「顧客のLTV(顧客生涯価値)を最大化する」ことです。とくにSaaSソリューションにおいては、既存顧客からの売上を高めることは事業を成長させるには必須です。LTVを最大化するために、アップセルやクロスセルによる売上拡大が重要な要素になります。そのためには、まずプロダクトを使ってもらい成果を出してもらわないといけない。だから、カスタマーサクセスというポジションが存在する、と考えています。

向井 いわば、営業と果たす役割や向くべき方向は同じはず……。でも実態としては、「サポート感」が強いと。
川村 そうですね。まだ「使ってもらうこと」だけに集中しているカスタマーサクセスが日本では多い印象です。また逆に他のポジションの方からは「数字に追われなくて済むんじゃないか」と思われている傾向が強いのではないかと思います。
向井 「数字責任がない」と捉えている人はかなり多いですよね。
川村 はい。既存顧客の売上をしっかり守り、そこから成長させていくという数字責任は本来カスタマーサクセスが担っているはずなのに、そういう仕事ではないように見られてしまっています。こういった認識の違いから、カスタマーサクセスはレベニューセンターではなくコストセンターと勘違いされることにつながっているのかなと思います。
向井 それは、マネジメントのカスタマーサクセスにする仕事の定義や役割の認識が歪んでいるからではないかと思います。最近は、「サポート対応ばかりになってしまっているチーム」と「単なる更新確認に追われるだけになってしまっているチーム」が出てきている気がしています。このあたりは、どう改善すれば良いでしょうか。
川村 目標は組織や顧客の状態によって変化しますから、それらの状態が完全に悪いとも言えないかもしれません。たとえば昨今のSaaSのKPIは、「プロダクトをどれだけ使ってもらえたか」から「NRR(Net Revenue Retention:純増収保持率)」に移ってきています。さらにグローバルではNRRから「GRR(Gross Revenue Retention:総収益維持率)」に戻ってきている部分もあります。このあたりは今後も変動的になるだろうと予測しています。
そのうえで、カスタマーサクセスは変化に対応できる組織でなければなりません。ただ、現在は、アップセルやクロスセルができないことに困っているカスタマーサクセスが多いことも事実です。営業経験者がアカウントマネジメントの概念を日本のカスタマーサクセスに注入していただけると、よりレベニューセンターとして認識が広まるのかなと思っています。