カスタマーサクセスは「アップセル・クロスセル」を担えるか?
向井 なるほど。営業を理解している人がカスタマーサクセスの組織にももっと必要だということですね。とはいえ、カスタマーサクセスの役割と営業の役割は違う部分もあると思ういます。川村さんは、カスタマーサクセスがアップセルやクロスセルの数字を追うことについてはどう思いますか。
川村 必須になってきていると思います。ただし、「攻め」と「守り」の両方の行動を適切なタイミングで使い分けることは、相当な難易度の高い業務です。
信頼を得ながら提案するタイミングの見極めは非常に難しく、押し売りのような形で不適切にアップセルを行ってしまうと、お客様から信用を失うリスクがあります。実際に、困ったときにカスタマーサクセスに連絡したいのに、毎回提案されるのが負担になって連絡を避けられてしまうケースも発生しています。
向井 その結果、ヘルススコアが下がって、1年後の更新タイミングで「使わなくなったのでいらない」と言われて、慌ててフォローを行っても、もう遅いと。
川村 そうです。だからこそ、営業経験者がカスタマーサクセスに入ることの価値があると思っています。カスタマーサクセスがアップセル・クロスセルを担うことは必須になってきている一方で、「守りも攻めもする」という非常に高度なスキルが求められているということも認識しなければいけません。この点で、少なくとも「攻め」のプロフェッショナルである営業経験者は大きな価値を生み出せるのではないかと思っています。

向井 営業とカスタマーサクセスの適切な役割分担が必要だなと感じます。カスタマーサクセス側から見て、営業に気をつけてほしいことはありますか。
川村 「会社として正しい顧客を連れてくる」ことに営業担当者はフォーカスしないといけません。たとえば、現時点で自社のプロダクトを導入するべきではないお客様に導入していただいた場合、カスタマーサクセスのコミュニケーションコストが非常に高くなる。結果的に、ほかのお客様を成功へ導く時間を奪うことになります。
向井 HubSpotではその対策としてどのようなことをしていたのでしょうか。
川村 早期に解約してしまったお客様については、営業のボーナスを「クローバック」(返還)する仕組みがありました。後工程のことも考えて売るという仕組みは必要です。これはマネジメントの意思決定であり、仕組みを変えないと改善しません。
向井 私が営業マネジメントをしていた際は、カスタマーサクセスとセールスは同じ船に乗っており、「グロース」という目標に共に向かっているのだと繰り返し伝えていました。
グロースは、現在の売上を守りつつ、新しい売上を獲得することで初めて実現されます。つまり、営業が獲得した売上基盤、いわゆる「UserBase」を守るのがカスタマーサクセスで、その基盤があってこそ、営業が挑戦する新規営業とアップセル・クロスセルによって、成長が実現できます。
たとえば、新規売上の金額以上の解約が発生してしまえば、成長は達成されません。営業とカスタマーサクセスは、いわば背中を預けあうチームなんです。
川村 とても共感できます。私はよく「スラムダンクの桜木と流川みたいな関係」と言っていましたね。ゲームに勝たないといけない、会社を成長させないといけないという同じ目標に向かっているのに、パスをしあわないのはおかしいですよね。
向井 素晴らしいたとえですね。カスタマーサクセスと営業が協力して初めて会社全体の成長が実現するということですね。