まずは「仕事の定義」から始めよう

渡邊 「AIに奪われない営業パーソンのキャリア戦略」が本日のテーマです。私自身はこの時代でも、営業職には大きな可能性があると考えています。とはいえ、不安に感じている方も多く、イベントにもこうして集まっていただいているのではないかと。
まずは前提をすり合わせていければと思うのですが、大きく3つの変化が起こり始めています。「仕事の定義の変化」「営業を取り巻く市場の変化」「働き方に対する考え方の変化」。まずは、『AI時代に仕事と呼べるもの』というキャッチーな書籍を出された三浦さんに、仕事の定義の変化についてうかがいたいです。
三浦 そもそもAI以前に、「仕事とは何か」から掘り下げる必要がありますね。『ザ・ゴール』(ダイヤモンド社)という、キャリアを広げるうえでおすすめの書籍があるのですが、本書では、平たく言えば、仕事の目的は稼ぐことだと説明しています。
三浦 慶介さん
株式会社グロースドライバー 代表取締役社長。一橋大学法学部卒業。サイバーエージェント、リヴァンプ、グロース上場企業スパイダープラスのCMOを経て2025年に独立。ゲーム・小売・飲食・教育・建設Techなど幅広い業界で事業成長を牽引。会員数150万を超えるヒットゲームの開発、数百万人が利用するCRMアプリの企画・開発、年間数十億円を運用するマーケティングチームの内製化、1年で生産性を160%改善する営業改革など、業種・業界を問わない事業成果を実現。現在は「AI時代の人材育成×事業戦略」を専門に、事業成長の伴走支援と知見の体系化に取り組む。2025年11月に著書『AI時代に仕事と呼べるもの』を出版。
三浦 稼ぐから利益が出て、社員に報酬を支払うことができ、事業への投資もできる。そして事業が伸びていくと、みんなが幸せになれる。
では、なぜ稼げるか。それは、顧客がいるからです。顧客に対し、何らかの価値を提供する対価としてお金がもらえる。つまり仕事とは、顧客に対して価値を提供することであるとも言えるわけです。私が勤めていたサイバーエージェントでは、こういった価値観を最初にたたき込まれました。
渡邊 私が在籍していたリクルートもそうでした。
渡邊悠介さん
株式会社Hibito 代表取締役社長。大学卒業後、リクルートライフスタイル(現リクルート)にて、美容領域での新規営業、新卒採用、飲食領域での新規営業から大手法人営業および、営業推進を担当。また、新規事業開発や、新規事業における営業プロセスづくりも行う。1年間のキャリアブレイクのなかで、コーチングと出会い、Pabloにて営業やコーチングプログラム策定を担当。2021年より営業支援SaaSと営業BPO事業を行うMagic Momentにて、マーケティング、インサイドセールス、セールス、イネーブルメント、事業戦略、コンサルティング担当者、採用責任者、営業責任者を歴任。2024年11月より独立。2025年4月にHibito創業
三浦 ただ、この考え方が浸透していない企業も多い。この考えに基づけばある種「売上未達はありえない」のですが……。話を仕事の定義に戻すと、営業職の良いところは、この「仕事の定義」を非常に理解しやすい構造にあることです。
では、AI時代の営業の仕事の定義はどう変わってゆくか。AIによってあらゆるアプローチや分析が効率化されるようになると、極論、人間が行うべき仕事は、顧客にどのような価値を提供するかを決めること、そしてその価値を届けるための人間にしかできない工夫に絞られていくのではないでしょうか。
渡邊 商談の2~3割がAIで完結しているという企業も知っています。たしかに、ゴールが決まっている状態であれば間のアプローチはAIに任せられる。いわゆる問い合わせ対応の営業はなくなっていく可能性が高そうですね。
一方で、難しい稟議をサポートしたり、価値を届けるための壁となりそうな部分を顧客と一緒に打破したりする。そういった部分に人間の価値が残っていきそうです。
「売れない営業」が増えている?
渡邊 続けて、「営業を取り巻く市場の変化」について、『営業の転職』を出版された梅田さんにうかがいたいです。
梅田 今、営業職の求人はとても増えているんですよ。私がマネジメントしている複数の採用サービスは、大手サービスに比べると後発ですが、それでもものすごい数の問い合わせがあり、採用に困っている企業が多いことを感じています。
一方で、書籍にも書いたとおり企業側の採用ハードルも上がっています。「採りたいレベルの人がいない」と困っているわけです。だから、一部のハイパフォーマーの給与がどんどん上がり、受からない人が出てきてしまっている。この二極化が市場の現状です。
梅田 翔五さん
上智大学経済学部経営学科卒業。 toB/toC、有形/無形、新規/既存と、幅広い営業活動および営業組織マネジメントを経験。 また、営業職に特化した人材紹介事業を立ち上げ、これまでに2,000人超の営業パーソンの転職相談や採用面接に関与。 日本最大級の営業の大会「S1グランプリ2023」準優勝。 2025年10月に著書『営業の転職 成果と納得を手にするキャリア戦略』を出版。
渡邊 大手とスタートアップでは、求人の傾向も違うのでしょうか。
梅田 違う部分もありますが、共通する傾向もあります。営業職に求められる要件のひとつとして、「問題解決力」が非常に重視されている印象です。三浦さん、渡邊さんの話にもありましたが、「AIに任せられる」ことが増えてきていますよね。
そうなると、すでに「ほしい」と思っているお客様ではなくて、「競合と迷っている」「自社の課題が整理できていない」など、人間が介入しないと買わないであろうお客様に対してコミュニケーションをするのが営業職だよねという認識が、大手でもスタートアップでも強まっている気がします。
渡邊 そういった能力を持つ人を採用するハードルはたしかに高そうです。よく言われる話ですが、採用担当者と現場の営業組織の間で、「採りたい人」がずれてしまうこともあるのでしょうか。
梅田 とくに大手だと採用人事と営業現場が遠い可能性も高いですね。あとは、採用の目標数を設定して人を採ったものの、育成がうまくいかないケースも多いようです。実際、1年間受注ゼロなど「売れない営業」が増えているともよく聞くようになりました。
渡邊 なるほど。そういった経験を積んだ結果、採用ハードルがまた上がるループになっているのですね。
3つめは「働き方の考え方の変化」。今年は営業関連のYouTubeで「ゾス」という言葉がよく出てきた印象があります。光通信などの企業で使われていた、気合いの入った返事で、かつてはブラック企業的だと忌避されていたものを好む人が少し増えたのかなと感じていて。
これは、コロナ禍のリモートワークの反動が大きいのではないかと考えています。とくに経験のない若手は、ひとりでもくもくと営業をすることの苦しさを感じていた人が多いでしょうし、自分自身がそうでした。もっと、組織でワイワイやりたい、苦しいことも嬉しいことも共有したいと考えている人が増えてきたのではないでしょうか。

