セールスベロシティとマーケティングベロシティがもたらす組織改革
この状況を打破するために宗像氏が提案するのが「セールスベロシティ」と「マーケティングベロシティ」だ。
セールスベロシティは、次の数式で算出できる。
セールスベロシティ = (商談数 × 平均契約単価 × 成約率)÷ 営業サイクルの長さ

たとえば、商談数20件、平均契約単価50万円、成約率20%、営業サイクル60日の場合、次のように計算される。
20 × 500,000 × 0.2 ÷ 60 = 33,333円/日
「この指標は日販として表現されるため、非常にわかりやすい」と宗像氏は説明する。「20営業日で約67万円の期待売上が立つということは、誰にでも直感的に理解できる」(宗像氏)。
このセールスベロシティを改善するためのポイントは次の4つだ。
- 商談数を増やす:マーケティング施策の強化やパイプラインの整備
- 平均契約単価を向上:バンドル提案やアップセル施策の推進
- 成約率を改善:営業スキルの向上や提案力の強化
- 商談サイクルを短縮:提案プロセスの効率化
しかし、宗像氏は「セールスベロシティだけでは不十分」と指摘する。なぜなら、商談数は「マーケティングリード(MQL)と営業へのパス率(MQL→SQL転換率)の掛け算」だからだ。
そこで登場するのが「マーケティングベロシティ」という考え方である。

「食品には賞味期限があるように、リードにも適切な管理指標が必要です。マーケティングベロシティは、まさにリードの鮮度を測り、適切な育成を促す指標となります」(宗像氏)
部門間の対立を生まない指標で、期待売上7.5倍のモデルケース
この指標の有効性を示すモデルケースとして、宗像氏はある企業での改善プロセスを紹介した。まず、広告予算の増加とSEO・コンテンツマーケティングの強化により、MQL数を400件から500件に増加。さらにリード育成施策の強化とMAツールによるリードスコアリングの精緻化により、MQL→SQL転換率を5%から15%へと向上させた。

商談面では、過去の商談や取引先の掘り起こし、バンドル提案やアップセルの推進により、商談数を20件から75件へ、平均契約単価を50万円から60万円に引き上げることに成功。
さらに、営業チームのSPINスキル向上や、ROI計算ツールなどの導入により成約率を20%から25%に改善した。特筆すべきは商談サイクルの短縮だ。電子署名ツールの導入や提案プロセスの標準化により、従来60日かかっていた商談サイクルを45日まで縮めた。
全体のベロシティは33,333円/日から250,000円/日へと飛躍的に向上し、月間期待売上は66.7万円から500万円へと、約7.5倍の改善を実現した。
「大切なのは、この指標がマーケティングと営業の活動を一気通貫で評価できる点です。1日いくら稼げるのかという『稼ぐ力』を可視化できるため、経営層にも理解されやすい。そして何より、部門間の対立を生まない指標となります」(宗像氏)