92%が効率化の機会損失? 生成AI活用の現在地
千葉(EYストラテジー・アンド・コンサルティング) 最初のテーマは「生成AIの現在地」です。生成AIの導入を最前線で支援している本郷さん、宮本さん、今はどういう状況なのでしょうか。
本郷(日本IBM) 「生成AIは便利だ」ともてはやされていますが、統計的に見ると、日本のビジネスシーンにおける生成AI利用率は9%程度にとどまっているのが現状です。さらにフロントオフィスでの利用率は8%にとどまり、ミドルオフィス、バックオフィスと比較しても少ないことがわかりました(※)。
これはフロントオフィスの業務は変数が非常に多いためだと考えられます。たとえば顧客ニーズを知るために生成AIを活用する場合、企業情報や窓口情報、自社の製品や営業状況のステータス、競合や市場の動向といった多くの情報を正確にプロンプトへ組み込まなければ、必要な情報が得られないのです。

パートナーソリューションズラボ アドバイザリーアーキテクト
本郷 元氏
NTTグループにて通信サービス技術企画・エンタープライズシステム構築におけるプロジェクトマネージャーおよびアーキテクトとして従事。2022年に日本IBMへ入社し、AI/Automation関連技術の検討・市場展開をリードしている。
本郷 しかし生成AIの利用者にユースケースをたずねたところ、顧客の状況・ニーズ把握やマーケティング活動、営業提案といったフロントオフィス向けの使い方が多いことがわかりました。生成AIを利用していない92%のフロントオフィスは、生成AIで効率化できる機会を大きく損失していると言えます(※)。

千葉 私も日々生成AIを活用していますが、一般的にはまだまだ活用が進んでいないのですね。これはどうしてなのでしょうか。
宮本(日鉄ソリューションズ) 生成AIの活用は技術の見極め、具体的な業務での技術検証、浸透・定着という3ステップがあります。この3つめのステップにおいて、現場が「使い方がわからない」状態に陥っているケースが多いようです。
この壁を乗り越えるためには、プロンプトを整理するなど実際の業務の中で生成AIをすぐに使える状態を整える必要があります。しかし、生成AIによってROIが見込めるユースケースがわからず、投資にあと一歩踏み込めていないのが、活用が進まない理由のひとつと考えられます。

デジタルソリューション&コンサルティング本部 DX&イノベーションセンター所属 ITコンサルタント
宮本 翔平氏
中央省庁担当組織において、OA基盤刷新等の大規模プロジェクトを中心にアカウント営業および企画構想支援を担当。2020年からは現組織にてITコンサルタントとして、流通・小売業や製造業、金融業など幅広いお客様に対する、グランドデザイン構想やDX推進プロジェクトを推進。近年は対話型AI・生成AIを主な領域とした企画や顧客への導入支援を実施している。
千葉 なるほど。EYではグローバル統一の生成AIツールを活用していますが、それらを使いこなすためのプロンプト集や活用方法の動画も同時に公開しています。こうした支援があればかなり使い勝手が良くなるため、生成AIを導入する際には工夫してみると良いですね。

カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーション パートナー
千葉 友範氏
大学院在籍中よりソフトウェアベンチャー立ち上げに参画後、総合系コンサルティングファーム勤務、IoTなどを手掛けるベンチャー企業役員を経て現職。現在は専修大学大学院にて客員教授も務める。 EYストラテジー・アンド・コンサルティング のカスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーションにて、顧客のビジネス成長のドライバーとなる戦略策定(サービスデザイン)から顧客接点改革(マーケティング、営業、コンタクトセンターなど)の変革実現までを総合的に支援するチームのパートナーを務める。また、先進的なテクノロジーを活用したサービスデザインを契機に、ファイナンス、サプライチェーンなどを統合的に支援するCorporate DXサービスのリーダーシップチームのメンバーでもある。
千葉 また、ROIに貢献する例として、市場調査の案件を挙げたいと思います。リサーチペーパーや論文を200本ほど読み込んで報告書をまとめるまで、スタッフ2人では約1ヵ月を要したところ、AIは1.5日で完了しました。まさにこれが、生成AIのROIと言えるでしょう。一方で、アウトプットが正確か検証する作業は必要ですから、試行錯誤しながら導入していくのが必要なタイミングではないかと思います。
※出典:総務省 2024年版 情報通信白書