組織改革を推し進める「共通言語」のつくり方
森 freeeさんは非常に精緻なプロセスを設計されていますよね。また、営業現場や企画職、開発部門が密に連携されています。KDDIでもAI開発やデータアナリストのメンバーに参加してもらっているため、その点は共通しています。
しかし、組織改革に挑むのが同じ部署の人だけではないからこそ、共通の指針や言語がないとうまくいきません。KDDIも、グループ全体で掲げる「KDDIフィロソフィ」に基づいて活動していますが、freeeさんの「マジ価値」というカルチャーは、現場の判断基準にまで落とし込める点がとても素晴らしいですね。
山本 共通言語をつくるのは非常に大切ですよね。たとえば社内SNSでみんなが同じ言葉を使うだけで、社内の浸透度や文化も変わってきます。キャッチフレーズをつくり、それを社内でバズらせるのはひとつの手です。
森 freeeさんはツールや施策のネーミングセンスがすばらしいですよね。
山本 ありがとうございます! その点はこだわっています。
合言葉は「脱コンフォートゾーン」
高橋 おふたりとも、現場を大切にされているのが伝わります。ただ、現場からすると「新しいツールか」と身構えてしまうこともあると思うのですが、そのあたりの浸透やチェンジマネジメントは、どう工夫されていますか?
森 まさにそこがいちばんの苦労どころです。社内アンケートでAI利活用の現状を可視化したところ、営業個人では市場リサーチが63%、議事録・商談要約が50%と高い一方で、ボトルネック分析や商談の勝敗分析はわずか7%にとどまっていました。営業企画側でも、施策の勝敗分析やボトルネック分析での活用は2%です。まだまだ伸びしろがあります。
高橋 個人利用は進んでいるのに、組織的な分析にはまだ手が届いていないわけですね。このギャップをどう埋めていくのですか。
森 私たちは「脱コンフォートゾーン」を合言葉にしています。どうしても現状維持バイアスが働きますが、あえて心地良い場所から一歩踏み出そうと。

感度が高い層には少人数トライアルや専門家レクチャーを実施し、成功体験を積んでもらう。マジョリティ層に対しては、利用率を週次・月次で可視化して現状を突きつけつつ、成功事例をシェアしたりトレーニングを入れたり。いちど周知して終わりではなく、1年間言い続ける。しつこいくらいの訴求が、文化を変えるには必要です。結果として、営業ひとりあたり10時間分/月の業務効率化を実現するなど、定量的な成果も見えてきました。
現場の痛みを理解し、自然にAIを使うフローを設計
山本 freeeでは、社内AIプラットフォームに「つばめ」という名前を付けて展開しています。まず「つばめAUTO」は商談の書き起こしからCRMへの自動入力、商談フェーズの自動判定まで行う機能で、商談の事後処理時間を45.2%、架電の事後処理時間を56.2%削減しました。結果として、顧客に向き合う時間が21.7ポイント向上しています。


高橋 大きな効果ですね。「つばめ」というネーミングも親しみやすくて素敵です。ツールを導入しても使われなければ意味がないという声はよく聞きますが、現場の定着はいかがですか。
山本 全営業の90%以上が毎日利用しており、毎月1万件以上の質問を受け付けるまでに定着しました。「つばめサジェスト」は顧客データや過去のコミュニケーション履歴から最適な提案仮説を提示し、「つばめNAVI」はプロダクトの機能の質問に即座に回答してくれます。インサイドセールスのメンバーからは「提案の幅が広がり、質の高い商談獲得につながった」という声も出ています。
ポイントは、営業が「AIを使っている」と意識しなくても、自然な業務フローの中でテクノロジーの恩恵を受けられる統合フローの設計です。現場の痛みがわかる人間と、企画職の経験を持つメンバーがつくるからこそ、筋の良い企画が実装できる。この企画と現場の一体感が浸透の鍵ですね。
