「ACE」の構築 ハイパフォーマーの「面談での行動」を15のスキルへ共通言語化
──阪田様の部署が立ち上げられた「ACE」は、どのような育成モデルなのでしょうか。
ACEは、単に営業スキルを標準化するためのものではなく、顧客との信頼関係を深め、課題解決を共に行うための行動指標です。顧客に向き合うという意志を込め、名前に「カスタマー」を冠しました。
私たちは製薬企業として「患者さん軸」を徹底していますが、直接患者さんにアプローチすることはできません。だからこそ、接点となる医療従事者に真摯に向き合い、情報を適切に届けることで、その先の患者さんに貢献する。このアステラスの使命を現場のMRが体現し、顧客から信頼されるパートナーになるための「共通言語」として、面談スキルを15項目に体系化しました。
──構築にあたっては、どのようなプロセスを経たのでしょうか。
徹底したハイパフォーマーの行動観察とインタビューです。同行や動画を通じて一挙手一投足を追うことで、ほかのMRとは違う「一見すると意外性があるが、実は効果的な行動」を紐解いていきました。
私自身もMRを12年経験してきましたが、改めて分析して驚いたのは、ハイパフォーマーは「ニーズ把握」が圧倒的に丁寧なことです。これは一例ですが、ハイパフォーマーは「顧客の置かれた状況は千差万別である」という認識が極めて強く、たとえ最終的に届けるメッセージが同じであっても、そこに至るまでの聴き取りの深さがまったく違いました。
こうした「顧客に伝えたつもり」を「しっかり伝わった」という状態へ変えるためのさまざまな暗黙知を、「15項目のスキル×6段階のレベル」に形式知化していったのです。
取り組んでみて嬉しい発見だったのは、ハイパフォーマー自身も自分の行動を客観視できるようになったことです。彼らの多くは自身の強みを感覚的なものとして捉えており、なぜ成果が出るのかを自覚していないケースも少なくありません。それがACEとして具体化されたことで、「自分はここを意識していたのか」という気づきにつながりました。
また、共通言語ができたことで、マネージャーとの面談からも精神論が消えました。「15のスキルのうち、どこを伸ばすべきか」という事実に基づいた議論が可能になったのです。組織全体で同じ「物差し」を持って語れるようになったことは、情報提供型からの脱却に向けた、極めて大きな一歩だと感じています。
「もし自分が現場にいたら」──想像力を土台にした地道な合意形成
──新しい仕組みを約800人に浸透させるのは、容易ではなかったのではないでしょうか。

ええ、とくに「なぜこの変化が必要なのか」という重要性を落とし込むのには苦労しました。とくにベテラン層からは「今のままでも成功しているのに、なぜ変えなければならないのか」という声もありました。人は変化を嫌うものですし、これまでの成功体験を否定されたくないという思いも理解できます。
だからこそ、本社からの一方的な展開とならないように、地道な合意形成を大切にしました。各拠点のリーダーたちと対話を重ね、「なぜ今、この変化が必要なのか」という背景を丁寧に説明しました。一度にすべてを変えようとするのではなく、特定のブランドや拠点でパイロット的に開始し、「この手法を試したら、顧客(医師)の反応が変わった」という成功事例を全国に共有していったのです。
加えて、マネージャー支援の観点では、本社所属のフィールドトレーナーが現場のマネージャー1人ひとりに寄り添い、実務に即した支援を丁寧に行ったことも、ACE浸透の大きなポイントだと考えています。
──現場を知る阪田様だからこそ、「相手の立場に立った想像力」を重んじてこられたのですね。
そうですね。本社から何らかの情報発信、依頼をする際、「もし自分が今の現場にいたら、この指示をどう受け止めるか」「何が彼らの不安を解消する鍵か」を自分自身に問い直し、考え抜くことを大切にしています。
現場の抵抗の背景にある本質的な理由を、まずは私たちが深く理解する。そのうえで粘り強く提案し、1つひとつ合意形成を積み上げていく。それは一見、泥臭い対話の連続かもしれません。しかし、組織の文化を変えるには、この「想像力」を土台にした対話こそが、結局は一番の近道だと確信しています。
