営業現場のAI定着を妨げる「PoC疲れ」
AIが営業組織に根づかない要因はどこにあるのか。
デロイト トーマツ コンサルティングの塩谷氏は、多くの企業がAI活用を「業務の自動化や効率化」として導入しつつも、局所的な成果に終始して経営インパクトにつながらず、「PoC疲れ」を生んでいると指摘する。この課題を乗り越えるためのキーワードとして、塩谷氏は「タイパ(時間対効果)とコスパ(費用対効果)」を挙げた。
まず取り組むべきは、現場における個人の“タイパ・コスパ”だという。
「生成AIの活用においても、現場の社員が“楽(らく)”を追求するほど、それが創意工夫や、結果的な勤勉な取り組みにつながります。楽になることを体感できれば、それが現場に浸透する起爆剤となるでしょう」と塩谷氏は語る。
この個人の「タイパ・コスパ」によってAIが企業内に普及し、民主化された段階で、ようやく財務的インパクトや人的リソースの効率的な活用といった組織の「タイパ・コスパ」へと焦点をシフトさせるべきだという。単に「便利になった」で終わらせず、AIを前提とした事業変革を進めることが重要だと強調した。
「PoC疲れ」について、日立製作所の吉田氏は「10年以上前から言われている構造的な問題」とコメント。AIが現場で使いやすい「手に馴染むAI」の設計と、PoCで終わらせずにその先を示すロードマップの提示が重要だと述べた。

ベテラン層を巻き込む「外部の力学」を活かした仕掛け
一方、コクヨの宮澤氏は、「お客様より先に失敗する」という理念のもとPoCはあまり行わず、本番環境の中で精度を改善していると語る。そのうえで、AIを営業組織へ浸透させる施策として、2023年から「KOKUYO DIGITAL ACADEMY(KDA)」を開講している。
KDAは、非エンジニア層向けに、IT領域を扱うビジネスサプライ部門のノウハウを全社に展開するものだ。AI活用人材としてのスキルを身につける「文系AI塾」に加え、やりたいことをシステム部門に伝えるスキルを身につける「IT講座」、データドリブンな思考法・分析スキルを身につける「データドリブン講座」、AIを安全に活用するためのセキュリティ・レギュレーションといった「守りの教育」もカリキュラムに含まれている。
参加希望制で延べ1,600名以上が参加したKDAだが、顧客の課題をもっともよく理解するベテラン層の巻き込みが課題だった。そこで宮澤氏らは、KDAのカリキュラムをパートナー企業(BtoB販売店)にも展開するというユニークな施策を実施した。
コクヨ株式会社 執行役員 ビジネスサプライ事業本部長
株式会社カウネット 代表取締役社長
コクヨサプライロジスティクス株式会社 取締役 宮澤 典友氏
パートナー企業から280名が参加を希望したことを受け、ベテランの営業や役職者の間に「担当している販売店と会話が成り立たなくなる」という危機感が生まれたという。その結果、ベテラン層が積極的にKDAへ参加し始めたのだ。これは、外部の力学を使って内部の文化醸成を促した成功例といえるだろう。

