「スキル」から「成果」へ CS人材のキャリアを拓く動的な評価制度設計
「人材育成においてもっとも効果的で、かつ即効性があるのは、会社の評価制度に組み込んでしまうことです」。山本氏はそう言い切る。同社はCS人材の専門性を正当に評価し、キャリアとしての魅力を高めるために、4つの要素で構成された独自の評価制度を構築した。
キャリアレベルを判定する4つの要素
- ビジネス貢献
CS活動が事業にもたらした具体的な実績を評価するもの。「責任性(チーム内での役割)」「複雑性(業務の難易度)」「サイズ(担当規模)」に加え、「実績(チャーンレートやNRRの目標達成度)」を定量的に測定する。
- スキル熟達度
CSMとして必要な専門能力の保有度合い。同社では、日本カスタマーサクセス協会(JCSA)が定義した「CSMに求められる要件(コンピテンシーとスキル)」などを参照し、独自のスキル基準を策定している。
- 行動指針と適合性
リコーグループ共通の行動指針(リコーウェイ)の実践度など、職種を問わず全社員に共通して求められる基盤的な項目。
- プロフェッショナル貢献
担当業務の枠を超え、組織や業界全体に対してどれだけ貢献したかを評価する。「専門価値の創造」「技術・知見の継承(社内勉強会など)」「後進の育成」などが対象となり、社外への情報発信や講演活動なども高く評価される。
この制度の白眉は、社員の成長段階に応じて、これら4要素の評価ウェイトが動的に変化する点にある。

社員のレベルと評価要素の比重
- ジュニアレベル(レベル1〜2):知識重視
このフェーズでは、CSに必要な専門知識やスキルを身につけることを最大のミッションとし、「スキル熟達度」には63%という圧倒的なウェイトが置かれる。対して「ビジネス貢献」の比重は低く設定されている。
- ミドルレベル(レベル3〜4):知識から成果への移行
レベルが上がるにつれ、「スキル熟達度」のウェイトが下がり、代わりに「ビジネス貢献」のウェイトが高まっていく。インプットした知識を活用し、具体的な成果(アウトカム)に転換することが求められるフェーズである。
- シニアレベル(レベル5):成果重視
ここでは「ビジネス貢献」が45%と、最大の評価軸となる。自律的に業務を遂行し、数字としての成果を出すことが強く求められる。同時に、「プロフェッショナル貢献」のウェイトが25%程度まで高まり始める。
- ハイレベル(レベル6〜7):成果+プロフェッショナル貢献
最高位のレベルでは、「プロフェッショナル貢献」が45%まで急上昇する。
さらに同社では、特定のレベルに達した人材を「プロフェッショナル」として認定し、年度ごとの奨励金や毎月の給与手当を支給するインセンティブ制度も導入した。
結果として、「CSMとしてのキャリアを極めることが、給与アップや社内でのステータス向上に直結する」という道筋が可視化され、社員の自律的な成長意欲を強力に後押ししている。
山本氏は会場の参加者に向けてこう締めくくった。

「今回はCSに特化した話をしましたが、人材の価値を定義し、成長に合わせて評価軸を変えていくという考え方は、営業やSE、その他の職種にも応用できるはずです。組織と制度の両輪が回って初めて、変革は加速するのです」(山本氏)
