製品開発の有益なヒントに CSの強みを発揮する「伝え方」
営業との連携と同時に考えるべきなのが、製品開発との関係です。残念ながら多くの組織では、製品開発とCSがほとんど連携できていないのが実情です。場合によっては、CSが「顧客の言うがまま、改善要望を持ち込む存在」と敬遠されてしまうことすらあります。
顧客にもっとも近い立場であるCSは、本来、製品開発にとって有益な知見をもっとも多く持つ組織です。それなのに両者の連携が進まないのはなぜか? 大きな要因は、要望の伝え方にあります。
製品開発との建設的な連携を築くには、次の2点を意識することが重要です。
1. ロジカルで再現性のある改善要望を出す
「顧客に言われたから」と要望を横流しするだけでは、CSは単なる伝達役に過ぎません。結果として、実装してもほとんど使われない機能が量産されることになります。
CSは、次の3点をきちんと分析し、優先順位を提示して要望を出す必要があります。これができるのは、既存顧客との接点を持つCSならではの強みです。
- その要望がどの程度の数の顧客に当てはまるのか
- それを改善することでどの指標(アダプション率、解約率、ARRなど)が改善するのか
- インパクトの規模(対象アカウント数、金額)はどれくらいか
2. 結果をモニタリングし、成功事例を共有する
改善要望が実装されたあと、それがどの程度使われているか、顧客のアダプションや成果にどう貢献したかモニタリングすることもCSの役割です。
たとえば、ある機能改善によって「チャーンされづらい状態」「クロスセルが生まれやすい状態」に到達した顧客がどのくらい増えたのか示すことができれば、製品改善の効果を事業インパクトとして説明できます。これは、第1回で提示した「ゴール達成に向けた4つのチェックポイント」がきちんと定義されていることによって可能になります。

今回取り上げた「営業・製品開発との連携」が進まない最大の理由は、第1回で示したカスタマージャーニーが明確に言語化されていないことにあります。成功の定義が曖昧なままでは、営業とも製品開発ともロジカルな会話はできません。中途半端な取り組みは「形だけのCS」に終わり、不要論の温床になります。
CSは単なる概念ではなく、組織的に実践し、改善し続ける営みです。100%の完成度を求める必要はなく、まずは定義し、実践し、PDCAを回す。その積み重ねが「本物のカスタマーサクセス」を形成していきます。この点に本気で取り組めば、営業や製品開発にとっても不可欠な存在となり、CSはコストセンターからプロフィットセンターへ、「単独の部門」から「事業成長の触媒」へと進化していくはずです。
最終回では、これまでの議論を踏まえて体制設計や評価指標の具体例を提示し、CS組織が事業成長の中心として価値を発揮する方法を考えていきます。