日本企業の危機 営業にのしかかるプレッシャーとは
アジア太平洋地域および日本における成長・営業・マーケティンググループのリーダーを務める倉本氏。製造業やソフトフェア/IT分野を中心に数多くの企業の営業改革を支援する中、注目したのが日本の営業生産性の低さだ。日本企業(外資系企業の日本支社を含む)の営業生産性は、グローバルと比較して常に低かったという。
そこで、日本企業の約10社から20社、アメリカや欧州・中国などを含むグローバル企業約50社を対象に調査を実施。その結果をまとめたのが、2021年に発表した『日本の営業生産性はなぜ低いのか』だ。
「今、日本の営業は非常に危機的な状況にあります」と倉本氏。日本の営業を取り巻く環境は大きく変化しているという。そのひとつが営業人口の減少だ。少子高齢化や人口減少により日本の労働力そのものが低下している中、営業も採用が難しくなっている。
ふたつめの変化として、国内市場縮小により海外/新市場への展開が求められている。日本企業の売上高トップ50社のうち、海外売上高比率の上位26社と下位24社を比較したところ、売上高成長率と営業利益率に大きな差が見られた。トップ50に名を連ねる大企業ですら、海外売上高比率が企業の価値を左右する重要な指標となる。
なお、日本企業の海外売上高比率は2010年と比較して伸びているが、それでもグローバル企業には及ばない。アメリカや中国のような自国市場が非常に大きい企業ですら、自国市場以外の売上の比率が大きいのだ。この海外進出の必要性は、営業活動にも影響を及ぼしている。
3つめが、提案営業への転換だ。製品のコモディティ化や複雑化により、営業は従来の「モノ売り」から、顧客の課題を解決するコンサルテーション営業、自社に限らず他社の商品・サービスも組み合わせて提案するソリューション営業など「コト売り」への転換を迫られている。
これらの変化に加えて、円安や物価高騰にともなう値上げ活動も同時に行わなければならないのが、現場の営業の責任だ。ロジカルに値上げを説明するだけでなく、サブスクリプションなど提供形態の変化やバリュープライシング(製品・サービスで顧客に実現する価値を反映させた価格設定)の活用などにより、提案営業などと同時での値上げ活動が容易となるだろう。
そして何より憂慮すべきが、G7最下位となる営業生産性の低さだ。倉本氏は、業種別に「営業ROI」をグローバル比較した図を示した。営業ROI(Return On Investment)はマッキンゼーが提唱する営業生産性の指標だ。営業にとってのR(Return)は売上ではなく、粗利(Gross Margin)である。多くの企業では「営業にとってのリターンは売上である」と答えるかもしれないが、マッキンゼーでは「営業のリターンは粗利である」と定義している。売上や販売数量の拡大に留まらず、適正な価格で粗利を維持もしくは上げることが営業の本来の役割だからだ。
一方、インベストメントは営業コストを指す。つまり営業ROI とは、営業コストに対して何倍の粗利を得られたかを示す指標である。この数値を、営業生産性を表す指標としてマッキンゼーは定義している。
図では、営業コストについてはIRなど公的に得られるSG&Aなどを使っているため、実際の営業コストより高く、ROIが本来の定義より低く出てしまうが、日本企業もグローバル企業も、同じ計算で比較している。日本企業の営業ROIが1~2程度であるのに対して、グローバル企業は2~4である。いずれにしても、日本企業の営業ROIはグローバルの競合企業と比べて、著しく低い。
この危機的状況において、日本企業は営業効率化やDX、ソリューション営業化、プライシング改革といった営業改革を一気に進める必要に迫られている。しかし、なかなかうまくいかない。なぜなら現在の経営層は、このような状況下での営業活動を経験していないからだ。経営層が知見やノウハウを持たないにも関わらず、現場だけで改革を進めるのは無理がある。それでは、いったいどうすれば営業改革を成功へ導くことができるのか。