営業の「暗黙知」を形式知に変える挑戦
徳田 次のステップとして、どのようなことを目指していますか。
岩本 「暗黙知」を形式知にすることです。具体的にはふたつの施策に注力しています。
ひとつは、案件になる前の「オポチュニティ」の可視化です。ロームの営業は、お客様から見積もり依頼が来る前に、お客様が抱える課題やニーズをヒアリングし、企画段階から入り込むことを得意としています。この目に見えない「案件になる前の活動」をデータ化することで、より早い段階での案件獲得につなげたいと考えています。
もうひとつは、若手営業の新しい成功ノウハウを形式知化することです。ベテランのノウハウだけでなく、たとえばSNSを駆使するなど、新しい時代に対応した営業手法もCLVのフェーズごとのマニュアルに盛り込んでいきたい。これには上席執行役員営業統括本部長の阪井も非常に前向きで背中を押してもらっています。

徳田 ベテランの経験と若手の新しいアイデアを融合させる。これからの営業スタイルを確立するうえで重要になりそうですね。
岩本 若手の中には、我々世代にはない面白いやり方を持っている人がたくさんいます。そうしたノウハウを形式知化し、社内で共有できるようにしたい。とくにグローバル市場に注力するうえでは、世代や文化が変わっても通用する、新しい営業のあり方を模索することが必要だと思っています。
徳田 実現すれば、ロームの営業力はさらに強化されそうですね。
岩本 優秀な営業個人のスキルに頼るだけでなく、組織全体として営業力を底上げしていく。それが今の私の目標です。個々が持っている優秀な分析ノウハウを、部門横断で共有し、全社の標準にしていきたいと考えています。
「管理」ではなく「支援」、営業リスペクトの精神
徳田 最後に、これから営業DXに取り組む方々にメッセージをお願いします。

岩本 IT・システム企画側の方々には「営業をリスペクトしてほしい」とお伝えしたいです。というのも、システム側にいるとどうしても、「営業を管理する」発想になりやすいと感じたからです。
ロームの営業の場合ですが、彼らはツールがなくても成果を出せる優秀な集団です。DXの目的は、彼らを管理することではありません。彼らの手助けになり、より効率的に、より高い成果を出せるように支援することです。彼らが何に困っているかを本当に理解し、その解決策をシステムで提供していく。そうしないと成果につながる取り組みは生まれません。営業現場をリスペクトすることが、DXのもっとも重要なポイントだと考えています。
徳田 営業の現場をよく知るからこそ出てくる、深い洞察に満ちていました。本日はありがとうございました!
【取材後記】ロームさんを突撃して
グローバルも含めてデータを利活用する文化が定着している企業は非常に少ないと思いますが、ローム社がその推進を実現できている背景として、岩本さん含めイネーブラーの方々が常に現場の温度感を捉え、リスペクトして、現場の役に立つことをしていこうという思いが大きいと感じました。
ベテランの経験と若手のアイデアの融合によって生み出される新たなナレッジという「データ」がどう現場に還元されていくのか、非常に楽しみです。
それにしても、1966年から「データを大事にする」品質管理方針が存在しているのは本当にすごいですね(汗)。エビデンスベースで事業成長してきた企業の強さを感じました。
(インタビュアー:NTTドコモビジネス株式会社 グロースマーケティング推進室 室長 徳田泰幸)