分断される顧客体験 なぜ「違和感」が生まれるのか?
ここで一度、顧客側の視点に立って考えてみよう。
たとえば、あなたが情報収集の一環として、とある企業のホワイトペーパーをダウンロードしたとする。まだ購買の意思はなく、「いずれ必要になるかもしれないから、今のうちに情報だけ押さえておこう」といった温度感だ。
すると、すぐに先方のインサイドセールスから電話がかかってくる。「資料のダウンロードありがとうございました。サービス導入のご検討は進んでいますか?」と、あいさつもそこそこに、まるで“購入前提”かのような話が始まる。こちらの関心度や情報収集の目的には目もくれず、「導入時期はいつ頃をお考えですか?」「よろしければ、いちどお話の機会を……」と畳みかけられたら、どう思うだろうか。
おそらく、あなたは「えっ、まだそこまで考えてないんだけど……」と困惑し、まだ情報収集段階であることを伝えることになるだろう。
その後も、ときどきメールや電話などの形で接点は続く。だが、やり取りのたびに担当者が変わり、前回のやり取りがまったく引き継がれていない。以前話した内容を再び聞かれたり、こちらの検討状況とかみ合わない案内が送られてきたりするたびに、「前にも言ったんだけどな……」「この会社、本当に話を聞いていたのかな?」という不信感が募っていく。
結局、「一貫性のない対応しかしてくれないし、この会社と話を進めるのは嫌だな」と感じて距離を置き、いざ本格的に製品導入を検討するタイミングになったときには、一貫した対応で信頼感を醸成してくれた別の企業を選ぶことになるのだ。

こうした違和感の背景には、前ページで見たように、各部門が“部門最適”のKPIに沿って動いている構造がある。
誰もが自部門の成果を出そうと真剣に取り組んでいるが、追いかけているのは売り手都合の「効率性の指標」だ。その中で顧客の感情や検討プロセスは置き去りにされ、「買いたくなる体験」からは程遠いアプローチを繰り返している。
結果として、顧客の多くは納得も信頼もできず、購買に至らない。それが今、分業体制を導入している多くの会社で起きている問題だ。