目指すは「トップライン向上」 AI活用の全体像を語る
営業活動の生産性向上は長年の課題だが、AIの登場により、解決に向けた具体的な道筋が見え始めている。現在、各社はどのようなアプローチでAI活用を推進しているのか。
パーソルキャリアの喜多氏は、テクノロジー活用を「顧客体験(CX)」と「従業員体験(EX)」の向上というふたつの軸で捉え、それぞれを「デジタル化(向上)」と「DX(進化)」に分類した4象限で戦略を描いていると説明する。
その中でも「事業の価値創造(CX×デジタル化)」と「はたらく環境のデジタル化(EX×デジタル化)」のテーマにおいて、BtoB営業・BtoC営業それぞれのワークフローへのAI実装を進めていると喜多氏。適正化、価値の強化、最大化の3つのステップで、バリューチェーンやビジネスオペレーションにAIを“練り込む”形で活用を推進していると語る。
一方、野村不動産ソリューションズの林氏は、AI活用への取り組みをPoC(概念実証)、サービス開発、活用促進の3つの軸で展開している 。活用促進においては、社員が講師を務める内製ウェビナーや、外部パートナーを交えたアイデアソンなどを実施し、全社的なAIリテラシー向上を図っている。
林氏は、AI活用の議論を「コストダウンや効率化」から「トップラインの向上」へとシフトさせることが、経営層や営業部門の関心を高めることにつながると強調した。そのうえで、AIがコモディティ化を引き起こすなど「ディスラプター(破壊的イノベーター)」となる可能性を恐れるよりも、AIを“当たり前”に使いこなし、サービス品質の向上に向けて取り組むことが競争優位性の鍵になるとの見方を示した 。
月間2,520時間を削減 現在の成果と「AI活用の成功ライン」
具体的な現場実装の例として、パーソルキャリアでは、インサイドセールスからフィールドセールスへの初回商談プロセスにAIを実装した事例を紹介した。
初回訪問時における提案書の自動生成と、顧客接点の自動入力および要約、商談内容のフィードバックを行う仕組みを実装。この結果、商談受注率が2.1ポイント向上し、月間2,520時間の削減につながったという。
さらにBtoC営業においては、求職者がチャットで職務経歴書を作成できる環境を提供し、相談までの期間を短縮するなど、顧客体験の向上にも着手している。
野村不動産ソリューションズでは、法人仲介営業向けに社内ブリーフィング資料の自動生成ツールを開発。面談前の企業調査や商談ストーリー構築、資料への落とし込みといった従来1日程度かかっていた準備をAIが担い、大幅な時間短縮を見込んでいる。
PoCを通して、将来的には、CRMへの自動入力や次にとるべきアクションの提案など、AIエージェントによる自発的な業務遂行にも可能性を見出していると語る林氏。とはいえ、全員にツールを使わせることは非常に難しい。林氏は、AI活用の成功ラインを「全社員の8割が使うこと」と設定し、100%の利用は求めない前提で設計を進めることが、現場実装の秘訣だと語った。

