商談件数236%増 販売店との関係やマネジメントにも変化が
山下 今回のイネーブルメント施策の中で、営業現場にもっともフィットしたポイントは何ですか?
阿江 やはり、スキルマップが販売店分析からクロージングまで俯瞰できている点です。
従来の研修では一部のプロセスしか取り上げられず、断片的な情報では経験の浅い営業には不十分でした。
加えて当社の場合、お客様への価値提案だけでなく、販売店と協業し、販売施策を進めたりするスキルも必要です。しかし、これまでは販売店との関係性や案件数、受注につながっているかといった3つ程度の評価軸でしかスキルをとらえられませんでした。
スキルマップにより評価軸が細分化されたことで、「ここが弱い」という点がスコアで明確に見えるようになったのは、非常に有益だったと感じています。
山下 スコアで明確に評価できるようになったことで、とくに改善すべきスキルも見えてきたのでしょうか。
阿江 その点は、個人によってグラデーションがありましたね。販売店を介した営業が得意なメンバーは案件を進めるのが苦手な傾向があり、逆に、案件獲得スキルがある営業は販売店へのプランニングは苦手といったように、1人ひとりの得意/不得意が可視化されました。
岡田 もし可能なら、各スキルのスコアにウェイト付けができると、より個別の営業スキルを評価しやすくなると考えています。全プロセスを同じ重みで評価するのではなく、ウェイト付けした合計値で営業スキルを評価してみたいですね。

山下 取り組みを経て、現在の成果をうかがえますか。
阿江 九州営業部では、プロジェクト開始前の上期と比較して、下期の商談件数が236%増、受注件数も140%増となりました。アセスメントの平均スコアも上昇し、2024年9月の2.5から2025年3月には3.1に上がっています。
山下 すばらしい成果ですね。案件も受注も増え、営業の成果もスキルも上がったと。販売店との関係はいかがでしょう。エプソン販売の営業メンバーがお客様へ直接アプローチすることへの懸念もあったのでしょうか。
阿江 販売店の分析スキルが底上げされ、売り方まで踏み込めるようになった結果、販売店とさらに深い話ができるようになったと感じています。成功事例をほかの販売店へ水平展開する流れもできていますね。
一方で、今回のプロジェクトの対象領域は販売店が得意とする領域ではないため、バッティングなどに対する懸念の声はありませんでした。むしろ協業がスムーズになり、Win-Winの関係になっていると感じます。
山下 営業組織やメンバー1人ひとりの変化について、印象的なものはありますか?

阿江 もともとハイパフォーマーだったメンバーで、スマートチャージ提案に積極的になり、情報共有も活発になったメンバーがいます。以前の成功体験が行動変容を阻害していた部分があったのですが、大きく変わりました。
また、イネーブルメントの取り組みを経て、課長とメンバーのコミュニケーションが大きく変わったと感じています。たとえば、1on1でWILLスキルマップを活用し、相手のスキルとWILLのレベルに合わせた非常に納得度が高い指導ができるようになったのは、大きな変化ですね。私自身、コーチングとティーチングの使い分けなど、メンバーに合わせたマネジメント方法について多くの学びを得ました。
岡田 営業のフレームワークを知ることで、これまで自分たちが無意識に行っていたことを再認識できたようです。また、今回のイネーブルメントではふたつの営業組織を対象としたことで、横の連携や切磋琢磨が生まれ、メンバーが自ら学んでいったのも、成果につながった要因のひとつだと思いますね。