「うちの営業はこうじゃない」 現場とのズレから方針を転換
山下 作成したスキルマップに対して、営業現場からはどのような反応がありましたか?
岡田 スキルマップ作成は、阿江が担当する九州営業部ともうひとつ、ふたつの営業組織とともに進めました。ところが、完成したスキルマップを営業現場に展開したところ、「うちの営業に必要なスキルと違う」という声があがったんです。ハイパフォーマーへのインタビューに基づいて作成したにもかかわらず、です。これは不思議でしたね。
山下 この反応について、阿江さんの感覚としてはいかがでしょうか。
阿江 想像どおりでした。実は九州営業部からハイパフォーマーを選出した際、スマートチャージの提案が得意なメンバーと、従来の商品提案が得意なメンバーをあえてミックスしたのです。
スマートチャージの提案が得意なメンバーからすると、案件を推進するスキルは必要だが、販売店を分析するスキルは必要なのか。従来型の販売店営業が得意なメンバーからすれば、案件化・クロージングのスキルは必要なのか。そうした違和感が生じます。そのため、スキルマップのすべてのスキルを保有している営業は少ないだろうと考えていました。
こうした反応を含めて、これまでとは異なるスキルが求められることが可視化されたのは、イネーブルメントの第一歩として良かった点だと言えます。

エプソン販売株式会社 ヘルスケアソリューション営業部 部長 阿江 隆之さん
入社以来、西日本エリアをメインに業種を問わず法人営業を担当。エプソン販売がセールスイネーブルメントに取り組み始めた際は九州営業部を牽引し、岡田さんとともにスキルマップの作成・運用に取り組んだ。現在は本社へ異動し、ヘルスケアソリューション営業部 部長として、ヘルスケア領域の企画部門と営業部門を担当する。
岡田 そうした背景があったのですね。当時の現場のリアルな声を聞けて良かったです。
実は当時、イネーブルメントの目的についても、企画部と営業現場の間にギャップが生じていました。企画部はスキルの標準化・可視化を目指していましたが、現場では「商談数を増やしたい。しかも販売店経由で」という別の悩みを抱えていたのです。
こうしたズレを見て「このまま進めるのは良くない」と判断し、まずは営業現場が課題とする「商談創出」に全力で取り組もうと方針転換しました。
具体的には、営業部が掲げていた「小売・流通業界にアプローチする」というプロジェクトに寄り添う形で、企画部が作成したスキルマップや、蓄積したノウハウを連携させていったのです。
阿江 九州営業部でも、2023年度のイネーブルメント施策はスキルマップ作成と個人のアセスメントが中心でしたが、2024年度には2名の営業課長からリクエストがあり、日々の営業活動で活用できる実践的なプログラムを作成していきました。
たとえば、当時の九州営業部では「案件を自ら創出できない」という課題を抱えていました。これまで案件創出は販売店に任せていましたから、顧客分析や仮説構築の経験が少ないメンバーも多く、案件を創出しようとしても、どの業種が良いのか、どのような提案をすれば良いのかがわからなかったのです。
そうした中、スキルや行動を標準化していくことで、どのように進めれば良いか、非常に勉強になりました。
とくに、スマートチャージの付加価値を製品視点・現場視点・経営視点で整理し、顧客分析から導き出した課題やニーズに即した「付加価値提案」を、販売店とともに実行するスキルを身につけるトレーニングを実施できたことは大きな成果です。直販営業のノウハウだけでなく間接販売に必要なスキルも一緒に考えられたのは、販売店経由での販売が主軸の当社にとって非常にありがたかったですね。