DX推進の主治医へ 金融機関が期待される役割と現在地
宮下 情報、DXというキーワードをいただいたところで、次のテーマである「DX支援の担い手としての金融機関の立ち位置」についてうかがいたいと思います。経産省が発表したDX支援のガイダンスでは、中小企業のDXにおいて外部の支援機関の活用を推奨しています。その中で、中小企業と日常的に対話し、成長を見守り続ける“DX推進の主治医”としての役割が期待されているのが金融機関です。
しかし「支店にネット環境がない」という声を聞くなど、金融機関そのものがDXから遠い存在なのではないかとも感じています。
今原 たしかに、金融機関自体のIT化やDXが進んでいないという声はよく耳にします。情報流出を防ぐために共通アドレスしか与えないなど、制限をかけることでセキュリティを守ろうとする銀行はいまだに多いのではないでしょうか。しかしこれは、ITの本質を理解できていないと言えるでしょう。
財徳 主治医とはつまり、患者の症状をよく理解している存在ということ。これをビジネスマッチングに当てはめると、経営状況をはじめ、企業の課題やニーズをもっとも理解しているといった役割を金融機関に期待するのでしょう。

株式会社B Spark 代表取締役社長 財徳 悦生氏
新卒でオリックスに入社、法人営業やグループ会社での不動産デベロップメント業務に従事。 その後、大手IT企業で国内クライアント向けデジタルマーケティング業務を担当。 2016年にあおぞら銀行に入行、不動産ファイナンス部・アジア事業部を経験した後、 2021年10月より現職。
宮下 ちなみに、金融機関の中でも、DX推進について学ぶ機会を実施されているのでしょうか。
今原 あおぞら銀行での取り組みのひとつが、4年ほど前に実施したDX研修です。データサイエンティスト、ビジネスストラテジスト、サービスデザインという3つのコースに分かれて、平日の昼と夕方、土曜日と、密度の濃い研修を半年間実施しました。この研修から輩出されたDX人材が行内に散らばり、ビジネスサイドからシステム活用を浸透させています。
また最近では、“予測”と“生成”の両側面から生成AIの活用法を考える、実践的な研修を実施しました。おもしろいのが、現状のシステムやデータ管理で実現できる活用と、行内に散在する膨大なデータを整理したあとで可能になる活用の2パターンを考えたことです。現状で行える活用は非常に少ないことがわかり、よりいっそうAI・データ活用に投資しなければならないと実感しました。
財徳 あおぞら銀行では、業務効率化につながるスタートアップのサービスを積極的に利用しようと考えています。そこから、銀行で導入して効果があったサービスを他社に提案するというサイクルをつくろうとしています。さまざまなデジタルサービスを自ら活用すればするほど社員のITリテラシーが上がりますし、企業へDX提案する際の心理的なハードルが下がり、アクティビティも向上していますね。
「法改正への対応」「何を解決するか明確」 ビジネスマッチングのトレンドを探る
宮下 次に、「ビジネスマッチングの今後のトレンド」についてうかがいたいと思います。過去、現在、未来という観点から、今後のトレンド予測を教えてください。
今原 過去のビジネスマッチングは、感度の高い担当者によって属人的に行われていました。情報が遮断され、どの商材のニーズがあるかも暗黙知となり、全社的な広がりにつながらなかったのです。今後は情報がすべてデータ化・可視化され、すべての社員がトレンドを予想できるようになれば、ビジネスマッチングに限らず、金融機関が行うすべての提案が変わっていくでしょう。
財徳 トレンド予測では、法律や制度改正に着目することも重要です。インボイス制度や働き方改革関連法に起因した、いわゆる2024年問題の際も、業界全体として大きな動きが生じました。次に来ると考えられるのは2027年度から適用が開始される新リース会計基準の適応です。すでに準備を始めている企業もありますが、そうした動きをいち早くとらえたサービスは提案しやすいですね。
トレンドをおさえていて、そのうえで、わかりやすいということが求められていると感じます。わかりやすいとはつまり、提案する営業担当者も導入を検討する企業も、どのような課題に対して何ができるかを端的に理解できることです。

今原 さまざまな製品・サービスを行内で説明する中で、結局何が良くなるのか、明確に伝えるのは非常に難しいと感じています。営業を経験した立場からすると、お客様のペインをどう解消するのかシンプルに説明できる商材は、能動的に提案してもらいやすくなると思います。
財徳 金融機関に対して勉強会を実施し、まずは営業担当者が初期的にサービスの概要を説明できるようにスキルを身につけてもらうのが良いと思います。