確実に実行し、成果を出すための1冊 注目の章を紹介
──本書はインサイドセールスの立ち上げ、成長期、拡大と、フェーズに沿って構成されています。この構成はどのような狙いがあるのでしょうか。
栗原 本書は、10年前から先行してインサイドセールスに取り組んでいる企業よりも、これからインサイドセールスに取り組む企業を想定して執筆しています。そのため料理のレシピのように段階的にメソッドを伝えることで、インサイドセールスを確実に実行し、成果を出してもらえる構成を心がけました。
原 また、マーケターやレベニューマネージャーなど全体最適を担う方にも役立つ情報を提供したいという思いもありました。インサイドセールスはフェーズによって様相がまったく異なります。その目的も新規顧客開拓だけにとどまらず、戦略やリソース配置、KPI、マーケティングコミュニケーションなど、ひとくくりに「インサイドセールス」では片づけられません。自社のフェーズで改善インパクトあるものは何か、インサイドセールスに直接関わっていない方々のヒントになれば嬉しいですね。
──おふたりがとくに注目してほしい章を教えてください。
原 第7章の「売上を最大化させる『成熟期』」です。成熟期はすでに一定の顧客から成約や認知を獲得していますが、そのうえで、自社を必要としていない層を開拓していかなければなりません。非常に難易度が高いフェーズといえます。
成熟期にこそ実行すべきこと、成果につながった事例をしっかりとお伝えしているつもりです。今まさに拡大・成熟していくフェーズの企業には、持ち帰っていただけるものがあるのではないでしょうか。
栗原 第3章の「立ち上げ前に考えておきたいこと」では、マーケティング戦略の立案、ペルソナやバリュープロポジションの定義、カスタマージャーニーに基づく施策設計についてお伝えしています。
インサイドセールスで成果が出ない理由として、コール数や追客が不足しているからだと思う方は多いです。しかし実際はオペレーション上の問題ではなく、正しい市場に正しい製品・サービスを提供できていない、PMFしていないケースがほとんどです。
インサイドセールスは、売れる状態のものをより効率的に売るための施策であり手段です。少なくとも、商談すれば一定以上の確立で受注できるレベルまでPMFしていないと、インサイドセールスを立ち上げても成果は出ません。インサイドセールスで成果が出ていないときこそ改めて、前半の章で意識していただけると良いのではないでしょうか。
インサイドセールスが「既存顧客のクロスセル」に貢献
栗原 また、原さんから教えていただいて、第3章・第7章でも触れたのが「カスタマーインサイドセールス」です。新規顧客獲得の効率化ではなく、既存顧客とのコミュニケーションにおいてインサイドセールスが活用できるという考え方です。
顧客基盤と複数の製品・サービスを有する中堅/大手企業は、新規顧客獲得より既存顧客からのクロスセル/アップセルが重要です。ところが、フィールドセールスは忙しく、クロスセル/アップセルを目的としたアプローチまで手が回りません。またカスタマーサクセスについても、すでに製品・サービスを導入している顧客からの問い合わせや、活用支援に注力し、商談機会の創出は難しい場合があります。そこでインサイドセールスが、情報発信やアポイントの獲得など能動的なアプローチを担い、既存顧客との関係を構築していくのです。
コロナ禍を機に、中堅・大手企業からインサイドセールスの立ち上げについて相談いただく機会が増えました。それらの企業はインサイドセールスに対して新規顧客の増加や生産性の向上を期待していますが、お話しするうちに、自社が抱える本当の課題は既存顧客のクロスセル/アップセルなのだと気づきます。今後はカスタマーインサイドセールスに注目する企業が増えるのではないでしょうか。
原 インサイドセールスを、「マーケティング・営業DXに取り組む際には、必ず投資すべき領域」だと捉えている大企業が増えていますね。カスタマーインサイドセールスを実践している企業では、たとえばM&Aなどを通してサービス・プロダクトを増やし、それを既存顧客に提案することでARPU(Average Revenue Per User)を高めている企業もあります。
とはいえ、カスタマーインサイドセールスを実行するには、部門間の連携不足や「オレの客/ワタシの客」の問題による売上機会の損失など課題もあります。まだまだ先進的な一部の企業による取り組みなのが現状です。