セールスイネーブルメントとは「データを通じて、人の行動変容を促し、営業成果を継続的に最大化する取組み」
「セールスイネーブルメント(Sales Enablement)」という言葉を文字どおりに訳すると「営業が何かをできるようにする(=成果が出せるようにする)」となる。山下氏は定義について次のように語る。
「市場にはセールスイネーブルメントに対するさまざまな捉え方があると承知したうえで、我々はセールスイネーブルメントを『データを通じて人の行動変容を促し、その結果として営業の成果を継続的に最大化する取組み』と定義しています」(山下氏)
営業の現場では、パフォーマンスの“バラツキ”がよく見られる。セールスイネーブルメントのアプローチでは、まずデータを分析し、営業が成果を挙げるための行動をとれるよう標準化することでバラツキを抑え、能力の底上げを図っていくわけだ。つまり、組織レベルでの行動変容を促すような取組み自体を指している。
続いて山下氏は、セールスイネーブルメントを成功させるためのポイントについて次のように説明する。
「ひとつめは、施策検討する際に“データドリブン”を取り入れることです。単なる育成やナレッジの共有よりも、まずは『なぜその取組みをやらなければいけないのか』という理由を明確にすることが大切です。そのためには、属人的な判断で施策を進めるのではなく、根拠となるデータから読み解く過程が欠かせないのです。また、営業成果のデータだけでなく、人に関するスキルレベルなどのデータなどもしっかりと整備し、何が営業のボトルネックになっているのかを捉えることが重要です。
ふたつめは、行動変容を実現するための施策がしっかりと組まれたら、施策の実行によって実際に成果が出たかどうかを可視化すること。データ分析ができたとしても、この部分が抜けていたら結果はともないません」(山下氏)
セールスイネーブルメントで立ちはだかる壁
企業が営業のデータ活用を進める際、SFAや関連システムを導入することが目的になってしまっていることが多い、と山下氏は指摘する。
「セールスイネーブルメントの観点では、もう一歩踏み込んで“営業組織強化にデータをどう活用するか”という観点で設計しなければいけません。そうでなければ、営業現場の理解度や納得性が深まらず、データ入力が進まなくなってしまいます」(山下氏)
山下氏はさらに、セールスイネーブルメントに取り組む際に立ちはだかる「一過性」「属人性」「ブラックボックス化」という3つの壁を挙げた。「一過性」は、1回施策を打っただけで終わってしまうこと。「属人性」は、たとえば「マネージャーでなければ施策を実行できない」という状態。そして「ブラックボックス化」は、データが可視化されておらず現状把握ができない状態を指す。これらの壁は施策が頓挫する原因となりやすいため、避けなくてはならない。実際、マネージャーが忙しくて新人のトレーニングが進まない、SFAを導入していてもデータ入力がなされていない、といった状況は散見されるという。
「こうした状況は、組織にとっても、個々の営業にとっても望ましくありません。新人が入社したら2〜3ヵ月で即戦力化できるよう、マネージャーの指導レベルを標準化する必要があります。さらに、ここでデータを活用して育成を進められれば、再現性を持って組織の目標を達成しやすくなるでしょう」(山下氏)