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SalesZine & Beyond 2025

2025年10月23日(木)12:30~17:45

「The Model」型組織の“分断と停滞”に効く 顧客起点の「カスタマーモデル」

顧客中心のアプローチ「カスタマーモデル」とは 顧客理解を深める新たなフレーム「VIPS」とともに解説

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「BANT」から「VIPS」へ 売り手視点から顧客起点への転換

 これまで顧客理解の一貫として、営業現場でよく使われてきたのが「BANT」という情報整理のフレームだ。予算(Budget)・決裁者(Authority)・ニーズ(Needs)・導入時期(Timeframe)の4要素を確認することで、案件の見込み度を見立てる枠組みとして長年使われてきた。

 しかしこのBANTは、あくまで売り手側の判断軸にすぎず、「顧客の検討状況」の文脈は十分に見えてこない。結果として、「顧客が本当に求めていること」とはズレたアプローチをしてしまう。

 たとえば、まだ顧客が課題を整理しきれていない段階で「ご予算はいくらですか?」と聞いたところで、「えっ。まだ何が必要かも分かってないんだけど……」「押し売りされそうだな」と不信感を与えることになる。そこで提案するのが、VIPSという新たなフレームの導入だ。

 VIPSは、売り手視点で案件の“見込み度”を判断するBANTとは異なり、顧客の意思決定の背景にある価値観や組織内の事情、進め方の論理を丁寧に読み解き、「どうすればこの顧客が安心して意思決定できるか」を考えるための視点である。

 たとえば、VIPSの最初の要素である「Value(価値)」は、「なぜそれを導入すべきなのか?」を数値・納得感の両面から言語化する要素だ。ROIや成果の見通しが曖昧なままでは、社内稟議も通らないし担当者の本気度も上がらない。担当者が社内を説得する材料を提供できているかが問われる。

 次に「Impact(影響)」は、その施策が社内外のどこに、誰に、どんな変化をもたらすかという視点だ。現場の負担や既存業務への影響など、検討の場では表に出づらい不安やしがらみを理解し、共に乗り越える姿勢が求められる。

Problem&Purpose(課題と目的)」は、その変化をなぜ起こすのか、何のために取り組むのかという文脈に関わる部分だ。目の前のニーズだけでなく、その背景にある本質的な課題や目指す理想像にまで踏み込んでこそ、納得感のある提案ができる。

 そして最後の「Support(支援)」は、それらの実現に向けた体制設計に関わる部分。どのようなサポートが必要か、どんなステップで進めれば社内の合意を得られるかといった、意思決定の“運び方”を見据えることで、検討プロセスの停滞を防ぐことができる。

 このフレームに沿って対話を進めていくと、顧客の表層的なニーズではなく、その背後にある事情や不安、社内調整の論理構造まで見えてくるようになる。

 マーケティング界隈でよく語られる「ドリルを売るには穴を売れ」という言葉のとおり、顧客が本当に求めているのは商品そのものではなく、「課題が解決された理想の状態」だ。VIPSは、その“理想の状態”を共に言語化し、そこに至るプロセスを設計するための実践的なフレームであり、顧客理解を起点にしたカスタマーモデルの中核を成す考え方なのである。

 今回は、カスタマーモデルの考え方や構造、そして顧客との対話を支えるVIPSのフレームを紹介してきた。

 いま求められているのは、売り手都合の最適化ではなく、顧客のリアルな検討プロセスを深く理解し、信頼に足る存在として伴走する力だ。そのために、私たちは「関係性」や「対話」、そして「仕組み」のあり方を根本から見直していく必要がある。

 本連載の最終回となる次回は、いよいよこのカスタマーモデルを「どう実践していくか」に踏み込んでいく。顧客理解を軸に据えた営業・マーケティングの再構築に向けて、具体的なステップを考えていこう。

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この記事の著者

株式会社イノーバ 代表取締役社長CEO 宗像 淳(ムナカタ スナオ)

 福島県立安積高校、東京大学文学部卒業。ペンシルバニア大学ウォートン校MBA(マーケティング専攻)。1998年に富士通に入社、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略、子会社の経営管理等の広汎な業務を経験。 MBA留学後、インターネットビジネスを手がけたいという思いから転職し、楽天で物流事業...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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