「コミュニケーション」と「仕組み」の設計図
内円:顧客とのコミュニケーション
顧客にもっとも近い内円は、実際に顧客と接する領域であり、顧客体験の“本体”となる部分だ。ここでは「関係構築」「価値提供」「示唆出し」の3つの働きかけが、相互に絡み合いながら顧客体験全体を豊かにしていく。この連続的なアプローチこそが、カスタマーモデルの根幹を支えるのだ。

(1)関係構築:信頼を積み重ねる
商談やメール、打ち合わせ、イベントの後日フォローなど、すべての接点が関係構築の土台になる。担当者個人の人柄や「感じの良さ」も無視できないが、信頼を継続的に築くためには、それ以上に「一貫性のある対応」が重要だ。
「誰が対応しても同じように信頼できる」と思ってもらえるかどうか。属人的な関係に頼るのではなく、組織として信頼を維持・継続できる仕組みをつくることが求められる。
(2)価値提供:顧客の状況に応じて“今、必要な情報”を届ける
タイミングや検討フェーズを無視した提案は、どんなに優れた情報でも響かない。顧客が「今どんなことに悩んでいるか」「どの段階にいるか」によって、必要な情報や伝え方はまったく変わる。
価値提供とは、相手の状況に寄り添い、「ちょうど良いときに、ちょうど良い情報を届ける」ことに他ならない。一方的な情報提示ではなく、対話を通じて相手のニーズを確かめながら、最適な内容とタイミングを選び取ることが必要だ。
(3)示唆出し:顧客に「気づき」を与える
誰でも情報を検索できる時代において、ただ情報を届けるだけでは、他社との差別化は難しい。多くの場合、顧客の頭の中は「情報はあるが、整理されていない」状態だ。だからこそ、対話の中で顧客の思考を整理し、まだ言語化されていない課題やニーズを引き出すことが求められる。
このアプローチは、チャレンジャーセールス(※)の考え方にも通じる。単なる説明者ではなく、「気づきの起点」となる存在として信頼を得ること。それこそが、今の営業・マーケティングに求められる新たな役割である。
※参考記事
外円:コミュニケーションを支える「支援システム」
内円で行われる3つのアクションは、すべて“人”による対話や判断に基づくものだ。しかし、担当者個人の人柄やスキル頼みの運用では、組織全体としての持続可能な仕組みにはならない。
カスタマーモデルでは、こうした人間中心のアクションを外側から支える「データ」「ツール」「分業」という3つの要素が不可欠となる。

(1)データ:顧客理解を深める“源泉”
データは、より質の高い顧客体験を実現するための材料である。
たとえば、顧客が反応したコンテンツ、過去のやり取りといった情報を蓄積・活用することで、「今、どのようなアプローチをすべきか」という仮説の精度を高めることができる。
(2)ツール:コミュニケーションを“助ける道具”
ツールもまた、顧客体験の質を最大化するために必要となる。ツールによってデータがリアルタイムで共有されていれば、どの担当者でも、共通の顧客像に基づいたアクションが取れるようになる。このように顧客体験の一貫性を保つことで、継続的な関係構築を支えるのだ。
(3)分業:顧客起点で連携する“チーム”
カスタマーモデルにおける分業は、あくまで「顧客を中心に据えた連携体制」として設計されなければならない。データとツールを活用したリアルタイムの情報共有を前提とし、部門を超えて顧客像を共有したうえで、組織として一貫した関係性を築けている状態こそ、分業の本来のあるべき姿である。
このように、カスタマーモデルは「人による顧客との対話」と「それを支える仕組み」が一体となって機能する構造を持つ。中心にあるのは常に“顧客”であり、その意思決定に合わせてアプローチの内容・順序・手段を柔軟に設計していく。
では、その“顧客の意思決定”を私たちはどこまで深く理解できているだろうか。