データ分析人材の確保・育成のプロセス
徳田 ここまでのお話をすでに羨ましく感じている読者の方も多いのではないかなと思います。というのも、このような仕組みをつくることはもちろん、データ分析ができる人材の育成・採用自体も難しいからです。そこはどう進めてこられたのですか。

NTTドコモビジネス株式会社 ビジネスソリューション本部
事業推進部 グロースマーケティング推進室長 徳田泰幸さん
上野 現在、DX推進本部には30名ほどのデータサイエンティストが所属しています。最初に「データサイエンティストを育成せよ」とお達しが出たのは2016年ごろで、マーケティングの領域で3~4名から始まりました。2018年ごろからは、中途の専門職制度なども取り入れています。また、分析や技術に興味がある若手が手を挙げて異動できる制度もつくりました。
最初の課題は、ビジネス側との連携が少なく、「質の良いテーマ」が少なかったこと。それでも、やりがいのあるテーマを一生懸命探しながら、メンバーにチャレンジさせて、鍛え上げてゆくうちにリーダー層も育っていきました。それが社内で広がり、「こんなテーマを分析してほしい」というふうに良いテーマがやってくるようになり、好循環に入っていった気がします。
そしてデータソリューション部のメンバーは普段私の近くにおらず、各プロジェクトに駐在しています。
現場に「駐在」するデータ人材 課題発掘から伴走する独自体制
徳田 IT部門と企画部門、営業現場がうまく連携できていない組織も多いなか、そのような仕組みがあるのはとても良いですね。どのような背景で、その形式になったのですか。
上野 内側に入っていかないと、どうしても単なる受発注のような関係になってしまいやすいんですよね。
ビジネスの現場にある課題や種というものは、誰もうまく言語化できていない、気がつけていないということも多いです。ですから、データ分析をできる人材が内側に入って、「課題発掘」から一緒に行ったほうが本当に良いテーマが見つかるんです。
メンバーには「ふたつのアイデンティティを持ってほしい」と伝えています。ひとつはデータ人材としてのアイデンティティ、もうひとつは参加しているプロジェクトのメンバーとしてのアイデンティです。どちらかだけになってしまうと、ダメなんですよね。
徳田 非常に素敵なスタンスですね。あらゆる側面から改革に取り組まれていらっしゃいますが、苦労した点などがあればあらためてうかがえますか。
行平 SFAをはじめ、良いツールをつくれば使ってもらえるだろうと思っていたのですが、そうかんたんにはいきませんでしたね。SFAの移行を行った際には、社内で900件電話がかかってきたこともありました(笑)。
この状況を打破するためにできたのが、「定着化支援チーム」です。営業担当者が興味を持つのは「どんな機能があるのか」ではなく、「どんなことができるか」「どのような成果が出るのか」。そこを意識して好事例を共有することで、自分ごとにとらえてもらえるようになりました。
ただ、活用が定着したと言えるまでには2年ほどかかりました。若手は比較的素早く受け入れてくれましたが、40代以上のベテランとなれば、これまでの積み上げてきたやり方もあり時間がかかることも。とはいえAI時代になり、より環境変化のスピードが速くなっており、経営層からも積極的に現場へツール活用を働きかけてもらえるようになってきたことも定着化の後押しになりました。