「現在地を知らないと戦えない」データ基盤の再構築に挑んだワケ
日立ソリューションズは、ユーソナーが提供している法人マスターデータ「LBC」を導入している。
ユーソナーは、データベース・マーケティング領域の支援事業を36年近く展開している企業。同社が提供するLBCは、国内の事業所データを集約したデータベースで、母数1,250万社、本社ベースで460万本社が連携されており、その網羅率の高さが特徴だ。
法人マスターデータ「LBC」
ユーソナー・鈴木氏は、LBCが持つ主な特徴として(1)企業網羅率の高さ(2)事業所単位でデータを紐づけている点(3)官公庁・地方自治体・学校法人等の公共機関も網羅している点 を挙げた
このデータベースとSFAを組み合わせて、営業の成果を上げているのが日立ソリューションズである。日立ソリューションズは、2015年から製造・流通・通信市場を主なマーケットとしている。市場や顧客の購買行動の変化に合わせて、2017年にSFAを本格導入したという。
同社の石原氏は、「営業組織は属人的で個人の力に頼っていた。明確なプロセスも決まっておらず、個人・組織いずれの実力も不明だった」と当時の課題を語った。
プロセスやスキルが可視化されていないため、なぜ受注につながらないのか原因を究明することが難しい。まずは案件を可視化するために、SFAを導入してパイプライン管理を始めたのだ。

株式会社日立ソリューションズ 営業企画本部 営業DX部 部長 石原あゆみ氏
2008年より運輸業、教育業、製造業、郵便、銀行等を対象にSalesforce導入支援を行う。2017年、自社のSalesforce再構築プロジェクトの開発リーダーとしてプロジェクトを推進。 2018年からはSalesforce拡販・カスタマーサクセスを担当。昨年より営業企画部に異動し、自社の営業DXのさらなる進化に向けたSales Tech活用に従事している。
実は、2006年にはすでにSalesforceを導入していた日立ソリューションズ。しかし、管理者が一方的に「入力しなさい」と促すばかりで、入力された情報を活用する習慣はなかった。
石原氏は、「自分たちの現在地を知らないままでは戦えない。本格的なSFAの再構築にあたり、まずはSalesforceの画面を大きく変更し、推進側の本気度を見せることから始めた」と語った。
同社のSFA・データ活用の特徴は、企業活動の中で発生するデータを全社で蓄積・活用している点にある。
日立ソリューションズでは、日立グループとして日立の基幹システムを使うことが必須となっている。また、SFA以外にも多数の業務システムを利用している。それらのシステムを通じて取得した情報を、すべてひとつのデータレイク(図の緑色の部分)に集約している。
このデータを活用するうえで、重要になるのが「マスターデータの精度」だと石原氏。
「分析する際は、取引先の企業や自社の製品、また部門ごとの成果といった、さまざまな切り口でデータを見たいと考えています。自社製品のマスタや、ユーソナー社の整備された企業マスタがこのデータレイク内に集まっていることで、うまくデータを活用することができています」(石原氏)
営業の「PDCA」 各ステップでデータ活用を実践
では、実際に営業メンバーはどのようにデータを活用しているのか。石原氏は、営業の「PDCA」の各ステップでデータを活かしていると説明した。
1. Plan
まず「Plan」の戦略設計で使うのが、日立ソリューションズが独自に設計し活用している「HEATMAP(ヒートマップ)」のダッシュボードだ。HEATMAPとは、どの顧客にどの商材が導入されているのか、顧客の軸と事業の軸のクロスで表現したものである。
縦軸に企業マスターデータ、横軸に同社の商品データを並べたダッシュボードになっており、業種や製品で絞り込んで表示することが可能。取引実績が色の濃さで表示されるため、横展開を検討する際に、自社の強み・実績を直観的に捉えることができる。たとえば、「Aの商品はこの業種によく売れているのに、同業種のこの企業にはまだ売れていない」といった“積み残し”が見えてくる。
営業チームでは、目標予算に対して、既存顧客・新規顧客からそれぞれどれくらい受注が見込めそうか、見立てたうえで営業活動を行っていく。その中で、新たにチャレンジするべき市場を定めるのに、このHEATMAPが役立っている。
ユーソナーの鈴木氏は、「現状を色で見えるようにするとわかりやすい。現場の人と共有しやすくなる」と評価した。

ユーソナー株式会社 営業本部 企画グループ 執行役員 鈴木彩乃氏
新卒でユーソナー社(旧ランドスケイプ社)に入社後、10年で営業本部企画グループ執行役員に就任。 大手SIer、金融機関などさまざまな業界の企業に対して顧客データを軸としたマーケティングを支援する。 「全員が売れる営業チームを作る」というマインドでチームビルディングを実行し、目標の大幅達成を継続している。
2. Do
「Do」の戦略実行においては、SFAによる案件管理が進んでいる。とはいえ石原氏は、「ここはまだ弱いところ。当社のSFAは抜け漏れのない案件管理台帳ではあるものの、細かい折衝履歴の情報は足りていない」と現状の課題を明らかにした。
今後は、営業メンバーの活動を支援するツールの導入を進めて、営業活動の内容も蓄積していくという。たとえば、商談録音から顧客ニーズや営業メンバーの行動を分析してくれるAIツールをトライアル中だ。
「こうしたツールを使って営業活動の状況を蓄積できた暁には、営業活動の“型化”に取り組みたい。メンバー自身が、“型”と自分の行動・状況の差がわかるようになると、自信を持って次のアクションに踏み出せると思います」(石原氏)
3. Check
その次の「Check」(実行状況評価)のステップでは、Salesforceが提供するBIツール「Tableau」で作成した業績ボードを活用している。
予算額、実際に案件として登録されている案件を足し合わせた総額、そしてパイプラインの状況を加味したシミュレーション値が、3本の折れ線グラフで表されている。この3本の線を見るだけで、誰でも現在の業績と達成見込みを判断できる。
石原氏は「この業績ボードができたことで、業績会議前に案件をExcel上に並べて集計する作業がなくなった」と言い、現場の負荷軽減にもつながっている。
これも、ベースに正確な企業・商品のマスターデータベースがあるからこそ。石原氏は「データに対する信頼が高いため、幹部もこのデータに信用を置いてくれている」と語った。
4. Action
PDCAの最後の「A」は、通常「Action」(改善)を指すが、石原氏は、日立ソリューションズの営業組織では「Action」に加えて「Analyze」(分析)も含まれると述べた。
パイプライン管理によって状態の可視化は進んだ。次に重要なのは「営業メンバーのスキルや、組織としてのポテンシャルを伸ばせるかどうか」だと石原氏は言う。
というのも、営業の成果は、業界や顧客企業といった外的要因に左右される。「顧客が売上を伸ばしているから、予算を達成できた」というケースも多い。予算の達成・未達成だけを見るのではなく、中長期的に組織が成長できているかを評価する必要がある。
そのために活用されているのが、営業KPIダッシュボードだ。
このダッシュボードを通じて、顧客企業の年間売上情報のデータを参照し、顧客成長率に合わせて受注を伸ばせているかまで分析している。
ここまで、日立ソリューションズのPDCAの内容を聞いた鈴木氏は「お客様の成長度合いも定期的に確認しながら、必要な提案を見定めている。理想的なデータ活用の進め方」だとコメントした。
この営業活動のPDCAを回す際、石原氏は「感覚ではなくデータに基づいて行動すること」を重視しているという。
「データに基づくと、客観的な判断ができ、合意形成しやすい。データを根拠に説明すると、『なぜそれを行ったのか?』が明らかになるため、取り組みをほかの組織にも横展開しやすくなります」(石原氏)
管理ではなく「営業を支援する」ためのAI・データ活用へ

こうしたデータ活用を進める日立ソリューションズは、なぜLBCを採用するに至ったのか。石原氏は、次の3つの理由を挙げた。
ひとつめは、圧倒的な企業データ数。企業を網羅できていないと、取りこぼしている企業がわからない。PDCAの「Plan」で必要なHEATMAPの作成自体が難しくなってしまうからだ。
ふたつめに、マスターデータのメンテナンスの重要性を挙げた。マスターデータの精度を高く保つには、頻度高くメンテナンスされていることが不可欠だ。膨大なデータ量の管理をユーソナーに一任できる点も、決め手のひとつだったと石原氏は言う。
3つめは、「企業ベース」でのデータ活用が実現できる点だという。当初は名刺管理ツールの導入を検討していたものの、名刺に紐づく「人」よりも、「企業」中心でデータ活用・管理をしたいというのが、日立ソリューションズの意向だった。
鈴木氏は、「網羅性の高さを評価いただけて嬉しい。2点めのメンテナンスも非常に大事なポイント。保有データが陳腐化すると、そのデータを基に分析した結果も正しい結果とは言えない可能性がある」と補足し、データの“鮮度”を維持することの重要性を改めて強調した。
また、昨今はデータ活用だけでなくAI活用も進んでいるという日立ソリューションズ。石原氏は「AIツールを管理のためではなく、営業メンバーの支援のために使いたい」と説明する。
たとえば、同社には400を超える商材があるため、営業メンバーがすべての商品を把握することは難しい。そこで、Allganize社が提供する業務プロセスの自動化と生産性向上を支援するAIアプリケーション基盤である「Alli LLM App Market」上で独自のAIチャットボットを構築。顧客の課題を問い合わせると、商材を組み合わせたソリューションをAIが提案してくれるという仕組みだ。
石原氏は「案件管理のためのデータ活用は進んでいるが、営業メンバーの個々の活動を支援する活用はまだまだ。AIを組み合わせて営業活動支援の充実を図っていきたい」と語った。
また、昨年末からユーソナーのサービスを利用して、インテントデータ(顧客が興味・関心を持ち意図を持って起こした行動データ)の活用を進めているという同社。インテントデータは、顧客のニーズを事前にキャッチして、確度の高い提案をするのに役立つ。
石原氏は、インテントデータ活用の強化に向けて要望を寄せた。
「インテントデータは、社内のほかのデータと組み合わせることで、データとしての価値がより高まると思います。しかし、まだインテントデータと連携できるシステムは多くありません。今後、連携可能なシステムが増えると嬉しいです」(石原氏)
これに対して鈴木氏は、「ぜひそうした要望にもお応えし、効果的な活用例を一緒につくっていけたら」と答え、セッションを締め括った。