AIは「選択より集中」 泥臭く進める営業変革のリアル
講演後、AIの組織浸透に関する具体的な課題と解決策について質疑応答が行われた。
社員全員へ生成AI活用を浸透させるためにプロンプト管理ツールを整えたい。しかし、適切な活用シーンの選定や、質を維持するための基準は、誰がどのように定めるべきか。
今井氏は「社員全員の利用状況を細かくチェックするのは現実的ではない」としつつも、セレブリックスの事例として、プロンプトの改善要望や依頼事項を積極的に受けつけるチャンネル(スレッド)を設けていると述べた。また、現場でより実践的なプロンプトが生まれる「ユーザーイノベーション」を重視し、プロンプトの内容そのものよりも、社員1人ひとりがAIと向き合い、自分の手になじむ活用方法を見つけられるように教育していくことが重要であると強調した。
プロンプト作成にはトップセールスのノウハウを引き出す必要があるが、業績で評価される営業職にとって、売上創出のための時間を削ってまでノウハウを共有してもらうのは、その分のインセンティブを示さないと協力は得られないように思う。その点をどのように設計すべきか。
また、AI活用に限らず、営業変革には経営トップ層からの明確な号令が不可欠であり、これがないと現場への浸透は難しいと指摘。営業のインセンティブを、業績に加えて「会社がもっとも重視する営業変革プロジェクトを最も体現した人」を評価する軸を設け、表彰や共有の機会をつくることで、新しい営業スタイルを実践する社員にスポットライトを当て、モチベーションを高める仕組みが必要だとした。
さらに、トップセールスの持つ「秘伝のタレ」を引き出すには、プロジェクトメンバーにその人を入れることがもっとも効果的であると今井氏。協力的でないベテランほど信念が強かったり、発信力が強かったりするため、一度協力を得られれば、強い推進力を発揮する可能性がある。「会社の変革にはあなたのノウハウや知見が必要だが、AI任せでは間違った伝わり方をする可能性があるため、力を借りたい」と泥臭く頭を下げていくことで、より精緻な情報を引き出せるという。
現在はさまざまなAIモデルが存在する。それらはどのように使い分けるべきか。
複数のAIモデルの使い分けについて、「自分が使いやすいもの」「会社が推奨するもので」で良いと述べた。今井氏自身の感覚としては「集中派」であり、AIモデルごとの能力や特徴よりも使った時間が長いAIのほうが、自分用に学習して良い答えを出してくれるという。

今井氏の講演では、生成AIが単なる業務効率化ツールに留まらず、営業組織の変革、人材育成、そして顧客との関係性構築に深く貢献する可能性を具体的に示した。AIを活用し、個人のスキルアップと組織全体の底上げを図るセレブリックスの取り組みは、多くの企業にとって生成AI活用のヒントとなるだろう。