AI活用を妨げるのは“無関心と様子見”
田口(ナレッジワーク) 今日は富士通さん、NTTコミュニケーションズさんの取り組みをリアルにお話しいただきます。さっそく、おふたりの自己紹介をお願いします。
小松(富士通) 富士通の小松です。IT営業職のキャリアを歩んで37年になりました。本日は富士通に入社して3年間、OLD SALESを乗り越えようと取り組んできたことをご紹介します。
戸松(NTTコミュニケーションズ、現:NTTドコモビジネス) NTTコミュニケーションズの戸松です。NTTグループでマーケティングと新規事業を行っております。今日のテーマは「AI活用の最新事例」ということで、少しプレッシャーを感じますが(笑)、個人的には、とても楽しく取り組んでいます。
社内のメンバーに伝えているのは、「AI活用のスタンスとしてもっとも良くないのは、無関心で様子見だ」ということ。やらないならやらないほうが良いし、やるんだったらどっぷりとやったほうが良い。この点についてお話しできればと思います。

商談準備の“精度と効率”を高める! 富士通のAI活用
田口 最初のテーマは「AI×先進企業のリアル事例から読み解く“革新の今”」です。両社の取り組みについて教えてください。
小松 富士通は現在さまざまな業務やサービスで独自AIを提供しています。一方、営業の活用はまだまだな面がありますね。今日ご紹介することが正解なのかはわかりませんが、発展途上だという前提で聞いてください。
OLD SALESは先輩が教えたやり方で営業する、部門ごとに作法が異なるなど、属人性が非常に強いものでした。生産性低下の要因になると同時に、異動や退職などで人が抜けると、組織のパフォーマンスが一気に落ちます。いかに再現性を確保し、2:6:2の法則の“6”の生産性を引き上げるか。この領域でAIを活用しようと取り組んでいます。
そこで現在富士通が目指すのは、適格な立場の人に、ベストなタイミングで、的確な提案をできるようにすること。シンプルですが、意外と難しいんです。たとえば、営業は「自分たちの顧客はCIOだ」と思っている。しかし、CIOは予算の中で戦略や施策を立案・実行する立場です。法人営業が本来アプローチすべきは、予算の決定権がある事業責任者。このズレによって、アプローチの的を外してしまうんです。
この問題を解消するために重要となるのが、商談の準備段階です。このフェーズに営業効率を下げる要因があると考えて開発したのが、富士通独自の「セールスイネーブルメントAI」です。

小松 セールスイネーブルメントAIは、答えを求めるものというより、確認するためのツールと言えます。上長や同僚が忙しくて相談できないときでも、ひとりで気兼ねなく壁打ちができたら良いのではないかと考えて開発しました。AIから「このケースならこんなことが考えられるのではないか」「この課題についてどう踏み込むのか」と質問され、答えていくと、商談のアジェンダや資料が作成できるというものです。
また、資料だけでなく、富士通にはさまざまなAIエージェントが存在します。テクノロジーカンパニーなので、自分たちでどんどんつくってしまうんですね(笑)。それらはどこに何があり、いつ何を使えば良いか知らないと使えません。そこで、セールスイネーブルメントAIがすべての窓口となり、最適なAIエージェントをナビゲートする活用も実現しています。
しかしこれだけでは、たとえるなら、最適な商品を風呂敷に包んで持たせているだけの状態。成果に結びつけるには、やはり、適格な人に的確な提案を届けないといけません。そのためには分析・フィードバックが重要です。これも、セールスイネーブルメントAIにミーティングのテキストデータやお客様の発言の診断結果を学習させることで、その精度を高めています。
本来アプローチすべきターゲットを正しく認識する“意識改革”のトレーニングと教育、セールスイネーブルメントAIによる事前準備の徹底、そして分析・フィードバック。このサイクルを回して、営業の生産性を高めようと取り組んでいます。